上松の郷愁風景

長野県上松町【宿場町 地図
 
町並度 5 非俗化度 8 −大火を免れ辛うじて残る旧中山道の町並−






旧上松宿では上町付近に僅かに面影が残る


 この上松付近の木曽谷は嶮しく、谷間に開かれた旧中山道には「木曽桟
(かけはし)」の難所があった。桟とは崖に張出し式の歩道を設けたもので、余りに斜面が急なため道を造成する余地もなかったのだろう。後になり石垣に改修されたが、江戸前期頃までは丸木などを渡したものであったらしく、大水で流されるなどして危険な桟道であった。
 桟の難所の南に上松宿が置かれていた。現在の上松市街地とほぼ被った形となっており、街道筋は残っているが町並としては北端部のごく一部しか残っていない。度々火災があったことが大きな要因で、中心部であった本町や中町あたりはほぼ当時の面影はない。本陣・脇本陣がそれぞれ1箇所構えられていたがその遺構もない。
 旧国道19号線の十王橋付近で南に向って左側に分岐する街路が旧中山道で、わずかに上り、曲線を描く道筋に沿い古いたたずまいが続く。この上町だけが度重なる火災の被害を受けることなく往時の家並がよく残る。密集した平入りの家々で、連続性が高く見応え感もあるが、比較的簡素な造りが多いのは町はずれだったからなのだろう。しかし、一部には二階に手摺が残り、置屋を想起させるものがあることや、雨戸や戸袋など木の多用が目立つ。上松は木曽地方の中でも特に昔から林業の盛んなところで、尾張藩がここに材木役所を置いて木曽地方全体の山林を管理していた。
 坂を上ると早くも古い家並は途切れるが、この付近からしばらく蔵造りの建物が散見される。それらは大火を教訓として建てられたものと思われ、医院などとして利用されている姿もあった。
 




 寝覚集落には二軒の宿屋が並ぶ迫力ある街道風景が残っていた
 

 町の南外れの寝覚地区も見ておきたい。ここには中山道時代からの二軒の宿屋が並び、貴重な街道風景が残っている。1軒だけならその建物を眺めるだけであっても、複数連なって残っていると町並的風情が出てくる。いずれも大柄で本格的な旅館建築である。谷間に下ったところが景勝・寝覚の床であるため、そこを観光する客のために建てられたのだろう。
 残念ながら現在は二軒とも営業されていないが、さいわいその内「民宿たせや」の看板のある建物を見学することができた。奥様の話では最近まで修学旅行生も受入れていたという話だが今は廃業されている。痛んだ箇所もあり、自治体などで保存の手を打たないといずれは取壊しするしかない運命にある。二軒の並びが素晴しいだけに、何とかしていただきたいものである。


訪問日:2008.06.08 TOP 町並INDEX