阿知須の郷愁風景

山口県阿知須町<港町> 地図 <山口市>
 
町並度 5 非俗化度 8 −石炭の積出港として廻船問屋も残る−


居蔵造りと呼ばれる旧家の残る阿知須の町並


 阿知須はかつて阿知須浦と呼ばれた港町であった。最近この古い市街地の外側を埋め立て博覧会が開催され大好評であった。しかし旧来の阿知須浦は、観光客の賑わいをよそに密やかに息づいていた。
 「注進案」には「此村口数の割よりは、田畠少く御座候故、村内三分一余は漁業廻船乗等の海上の働きを業とし、小商ひも仕候者も少々これ有候」とある。古くからの漁業集落であった。
 一時期は廻船60隻を保有していたというほどの本格的な港町で、その積荷の多くは近隣の農産物や宇部周辺で採掘される石炭であった。ここでそれらは集結された後上方などに帆送され、それらを取扱う商人の家々が建ち並んだ。
 阿知須浦の町並は博覧会に伴う埋立地に陸封されたように残っていた。町の北側を井関川が東西に走り、その河岸にはここに出入りする廻船群の目印であっただろう常夜燈が保存されていた。
 港町は細い路地が網目状に交差する、いかにもそれらしい雰囲気を帯びていた。そして漆喰に頑丈に固められた家々があちこちに残っている。特徴的なのは収納庫だけでなく住居自体を土蔵造りとした居蔵造りと呼ばれる建物が多く見られることで、西日本では珍しい町並景観といえるだろう。しかも、海鼠壁装飾に彩られたその1階部分は、街路に面した両端部で一層その壁厚を増している。これは戸袋で、ここに漆喰で作られた泥戸が収納されているのだそうだ。江戸後期から明治にかけてしばしば大火に襲われたこの阿知須浦では、火事に対する厳重な備えが家々の構造にも現れている。
 旧家に挟まれた路地には煉瓦塀がアクセントを添える風情ある風景も見られ、町並景観上のアクセントとなっていた。
 









  
訪問日:2002.01.05
2019.01.10最終取材
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  ※2019.01訪問時撮影

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