赤岩の郷愁風景

群馬県六合村【山村集落】 地図
 
町並度 5 非俗化度 5 −養蚕が盛んに行われた原型的農村風景−


赤岩集落の風景


 吾妻線の長野原草津口駅付近より国道292号線を白砂川沿いに約5km北上すると、対岸の段丘の上に山間集落らしい家々が斜面上に点在しているのが見える。六合村赤岩集落である。ここは近年になって集落系としては数少ない重要伝統的建造物群保存地区の指定を受けており、それは家々の造りが独特か、集落全体の景観が素晴しいかどちらかの理由だろう。その実態を確認してみたいと思い訪ねた。
 この集落の特徴は上州一帯で盛んに行われていた養蚕農家がその原型を保ち多く残っていること、そして付属する土蔵や納屋、石垣から構成される集落景観、さらに集落の信仰の対象となった神社や祠、お堂などの配置が江戸当時から大きく変わることなく残っていることだ。その伝統的な集落環境が評価され重伝建地区選定に至ったのである。
 集落に入ってみると、その展開は意外にも街村に近い直線的なもので、家並としての連続性が感じられる。しかし都市型の町並とは異なり、通りに面して入口を設ける構造ではなく、平入り家屋の妻部が接しており、前庭が設けてある。主屋、前庭、主屋と連なり、時に土蔵も挟まる。また他方では石垣を積んだ上に立派な越屋根を立ち上げた威風堂々といった独特の養蚕型民家が見られる。一部には三階建のものもあった。主屋は出桁の構え、そして真壁が標準的だ。
 この赤岩は江戸末期の蘭学者高野長英が脱獄後一時的に身を潜ませていた地としても知られている。中之条
(吾妻郡中之条町)から暮坂峠を越えこの赤岩集落にたどり着いた長英は、医者であった湯本家にかくまわれていた。数ヶ月で追ってくる人の気配を感じ、越後へと落延びるのであるが、その湯本家は今でも当時そのままに残っている。村の文化財として保存され、長英が過ごした間も原型のまま保たれているのだという。
 対岸の国道は草津温泉にも通じているが裏往還であり、越後側に抜けることなく袋小路状を呈しているため抜本的な開発はこの六合村の谷には及ばなかった。開けた明るい谷間の中の平地で、周囲の環境は抜群で交通の便さえよければ草津やその背後の山岳地帯も近いことから大規模なリゾート開発がなされ、首都圏から多くの客が雪崩れ込んでも
不思議ではない。
 赤岩の原型的で自然な集落風景は、そのような背景を考えると非常に価値の高いものである。
 
 
 






赤岩集落の風景



訪問日:2008.10.13 TOP 町並INDEX