秋月の郷愁風景

福岡県甘木市<城下町> 地図 <朝倉市>
 
町並度 5 非俗化度 5  −小盆地に展開する牧歌的な旧城下町−



 秋月は福岡県のほぼ中央、三方を山地に囲まれた小盆地にある。筑後川の水系ではあるが旧筑前国に所属していた。
 福岡藩主であった黒田長政は、叔父にあたる黒田直之を秋月に配した。古くはここに秋月氏が蟠踞していたが、長政の三男長興は、その秋月氏の遺領をもって秋月城を築いた。以後秋月は城下町として発展することとなった。
 北に聳える古処山から流れ出る野鳥川沿いに町が造られ、城のある南側に陣屋と武家地、北側は主に町人地とした。また山裾に寺院を配置し、小盆地内にあってひとつの完成された町が形成されていたのである。






秋月の町並
 
 城下の出入り口には7箇所もの番所が置かれて厳重に警備され、文化10(1813)年の記録では家臣数500余りを数えている。また城下の家数も320余と相当な賑わい・勢力を保持していた。
 札の辻と呼ばれる交差点がかつての町人地の中心で、現在も最も町場らしい地点である。これより野鳥川沿いに南西に向かっては緩やかな下りの直線街路となり、町家建築が断続的に残る。妻入りのものが目立つが一部に平入りもある。1階部分が大きく改装されず、格子が原型を保たれている旧家も多い。また九州では珍しい虫籠窓を持つものもあった。
 家並の南端付近に古びた石橋が異彩を放っており、これは長崎から石工衆を招いて文化7(1810)年に竣工したものでその名も眼鏡橋という。歴史の重みを感じさせる構造物だ。また、秋月城跡一帯には往時のままの門や武家の長屋門などが保存され、桜も多く植えられ春には名所となる。町の風景も、町家が軒を接して連続する姿は少なく、そのかわりゆったりとした敷地に土蔵や中庭を配したものが多いらしく、小盆地に展開するというその地形的な要素からも、一つの小世界を形成しているようであった。
 重要伝統的建造物群保存地区となっているのは、古い町並の存在よりも、それら城下町全体としての遺構の豊かさによるところがあるのだろう。

 










訪問日:2011.05.01 TOP 町並INDEX