北涌・麻生津の郷愁風景

和歌山県那賀町<在郷町> 地図
 
町並度 6 非俗化度 9  −川港と高野山への客で栄えた町−






北涌の町並 商店の連なっていた名残が感じられる


 ここで紹介する北涌・麻生津地区は紀ノ川の左岸にある。鉄道や幹線国道の通る右岸側に比較すると、一般に市街地化度は低く、概ね長閑な農村地帯が展開している。
 河口から30kmほどの距離がある地区にもかかわらず「津」の付く地名があることは、ここがかつて川港として諸物資が積み出されたところであろうことが想像される。川岸に近い平坦地が北脇(涌)地区、丘陵にさしかかる位置に麻生津地区がある。










 麻生津地区では坂道に沿い豪農宅・商家宅を思わせる旧家が見られる

 

 
 『続風土記』には、北脇(涌)村について「茶屋町又笹江町ともいふ。往還なり。川辺にて運漕等よろしく商家多く出来り」と記録されている。往還とはこの地区に古くからの高野山への参道があったことをしめしており、事実高野山を示した立派な道標が残っていた。参道とはいっても車の通行も困難な細道であり、むろん現在ではその目的では使われていない。また港を仲立ちとした商家群がこの付近に大きく発達していた様子も読み取れるが、今ではその面影は乏しい。やゝ歯抜けとなったたたずまいで、古びた建物が散見される。しかし間口が広い立派な邸宅もあり、近年になって形成された集落ではないことは明らかである。
 大和街道の宿駅であった名手から紀ノ川の渡しがあり、多くの参客は舟でここに渡り、高野山に向ったらしい。道標から少し歩を進めると坂道となり一気に高度を稼ぎ始める。標高800mを超える地にある高野山へ向うのには多くの苦難があったことだろう。ここで暫しの休泊を取る客も多かったらしく、「旅舎ありて市街の姿をなせり」(『続風土記』)との記述もある。
 麻生津地区は細い坂道に沿って伝統的な建物が残っていた。豪農を思わせる厳かな構えの家屋もある。傾斜地に宅盤を形成しようと石垣が多用された姿が目立つ。石垣に用いられているのは紀州青石と呼ばれる緑色片岩で、これは中央構造線付近で見られる独特の岩石だ。この石垣の風景は、町並の中で印象度の深いものである。
 起伏のある地形に展開するこの町並は独特の風情がある。

  


訪問日:2011.08.14 TOP 町並INDEX