在原の郷愁風景

滋賀県マキノ町<農村集落> 地図 <高島市>
 
町並(集落景観)度 6 非俗化度 3 −湖北に残る茅葺集落−


在原集落の風景 在原集落の風景


在原集落の風景 在原集落の風景


在原集落の風景 在原集落の風景
 

 琵琶湖は平滑な湖岸風景が一般的に知られているところであるが、それは南部から中部にかけてであって、北部では急峻な山地が直接湖に没していて、穏やかな湖岸風景ではない。その山中にあるこの在原集落は、近畿地方にあってある意味秘境的な位置にあり、茅葺屋根の民家が多く見られることからも注目されている。
 琵琶湖岸の港町であったマキノ町海津から北に5kmほど、福井県境に立ちはだかる山地の小さな盆地にこの在原集落はある。一説によると在原業平が居住していたことからこの名が称されたとも言われるが不詳である。冬には1mを超えるほどの積雪があるという豪雪地帯で、集落を結ぶ県道は4月20日まで一部が通行止となり、実際私が訪ねたときもその通行止となる方角から入ろうとしたものだから迂回を余儀なくされた。確かに一部の民家の軒下にはまだ残雪が堆く、冬の厳しさを伝えていた。
 江戸時代には海津十ヶ村合宿のうちの一つで、天明5年「海津宿内牛馬表」では牛二匹、馬四匹とあり、宿入用銀を負担していた。近江と若狭を結ぶ往来がこの在原にも機能していたことを物語っている。その後湖岸地区が近代化されても、この在原は時代に取り残されたように、かつての姿に踏み留まって今にその集落風景を残している。
 集落内には茅葺民家が約30戸ほど残っており、ここに至る道が急勾配の険しいものであること、そしてこの集落周辺の地形がそれに反して小さく開けた盆地状であることからも、隠れ里のような雰囲気を強く感じさせてくれる。そのようなことからも、都落ちした貴族や戦に敗れた武士などが隠れ住んだ地であるとも解釈され、最近まで「都言葉」が残っていたとも伝えられている。
 これだけまとめて茅葺の民家が見られる集落は極めて珍しいといえる。小さな集落であるだけに、その印象は強いものがある。但し、ガイドブックなどでも紹介されるようになったためか、訪ねた日は三脚を取付けたカメラを携えた訪問客が多数見られ、さながら写真撮影会というような様相も呈していた。しかしそれがこの集落に住む人々にとって喜ばしいことなのか。それはNoと言わざるを得ない。中には集落の奥深く入った茅葺民家前の空地に無断で車を横付けにしている他県ナンバーの乗用車も眼にした。私などはこのような集落を訪ねる時は住民の気を乱さぬよう、気付かれぬよう密やかに訪問・撮影して後にするだけだが、無神経な訪問者には眼を覆いたくなった。
 
 

訪問日:2005.04.17 TOP 町並INDEX