阿波池田の郷愁風景

徳島県池田町<産業町> 地図 <三好市>
 
町並度 7 非俗化度 5  −吉野川水運の一大拠点 煙草の町−






本町通りの町並


 池田町は徳島県の西部、吉野川が峡谷から開放されて平野を作り出す、その接点にあたる。上流には峻険を極める祖谷渓谷があり、山峡の嵐気を感じさせる町である。
 ここの産業として煙草製造業が江戸期から勃興した。現在もこの周辺の吉野川の氾濫原には煙草畑が目に付く。当時、嗜好品であることから、幾度か幕府から禁止令が発布されたが、その目をかいくぐって産業は続けられた。煙草産業が全盛期を迎えたのは、明治期になってからである。全国屈指の刻み煙草の産地として、取引先は全国に及んだ。まだ徳島本線や国道の無かった時代、平田船と呼ばれる帆船で吉野川の水運で出荷し、徳島からの帰りには日用品その他を入手していたという。そのため、当地は古くから近隣の商業の中心地として、多いに繁栄をみたのである。
 明治31年「池田葉煙草専売所」設立。煙草産業は国営化され、専売公社池田工場へ。今でもこの山間の町にJTの工場が広い敷地を構えていた。
 池田の古い町並は、この煙草産業を背景に成立した豪商の名残である。阿波池田駅の東側1kmほどに伸びる本町通りには、繁栄を示す袖卯建を従えた旧家が、新しい家々に挟まれながらも生き長らえている。特に古い町並としての具体的な保存は行っていないらしく、漆喰がはげかけたり1階部分が近代的な店舗になってしまっていたりする。しかし堂々たる分厚い卯建が連なる一角もあり、かなりの迫力がある。
 通りの西側に「阿波池田たばこ資料館」がある。かつての刻み煙草の製造法、商いの記録、吉野川の水運などについて豊富な資料があり、刻み煙草の試飲もできる。この建造物は相当な豪商であったらしく、豪華な中庭を拵え周囲に渡り廊下、客人を接待する居間には黒檀、屋久杉を使った贅を極めた造りとなっていて、煙草産業が如何に栄えていたかが知れる。




酒商と袖卯建の旧家  「まちかど資料館」として公開される施設 かなりの敷地を有していた
 二度目に訪ねた時、本町通りはコンクリートパネルにより舗装しなおされ、煙草資料館や町並を訪ねる客におもねる色が伺えた。それに反して、幾つかの町家は取壊された形跡が見え、空地となっている箇所も散見された。町家が多く連続していてこそその価値は高まる。重伝建地区の指定を受けていないため、自治体レベルの保存策は難しい点もあろうが、質的には非常に良いものが残されているだけに、何とか家並の連続性を保ち続けてほしいものだ。

※印は2002年4月、他は2007年3月撮影

訪問日:2002.04.29
(07.03.25再取材)
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