黒谷の郷愁風景

京都府綾部市<産業町> 地図 
 
町並度 4 非俗化度 6  −中世より和紙生産が行われた国境の集落−
 

 

細い谷間に沿い素朴な家並の見られる黒谷地区


 綾部市域の北部、舞鶴市との境界付近に黒谷という地区がある。舞鶴市街から海に注ぐ伊佐津川に支流黒谷側が合流する辺りにあるが、平地はわずかで付近は山間部といった気配である。古くは丹波・丹後の国境に位置する辺地でもあり、耕地に恵まれない零細な農村であった。
 「黒谷の和紙」と記された案内板が国道から見える。この地区の製紙業は歴史の古いもので、中世末期頃には原料の楮の栽培が記録されており、江戸前期の元禄期には所属していた山家藩の代官が生産を奨励、保護政策もあり生産性が高まり、京都市中などにも出荷されていた。黒谷の和紙は山家藩にとって重要な特産物であった。
 江戸後期の天保期の村方文書では「年来山稼紙漉などの余職をもつて御上納仕来候程の村方」とあり、幕末になると各所からの技術指導などもあり隆盛期となり、明治5年には戸数111を数え、その頃9割ほどは製紙業に従事していた。大正の頃には日本一強い紙と評判で、様々な用途に重用された。京都の着物の包み紙や寺社や住宅の障子など、取引先に需要の高い地域があったことも発達を促した。現在も生産が続けられており、京都府の無形文化財にも指定されている。
 黒谷の集落は国道との交差点付近から黒谷川に沿い西に伸びている。両岸に家々が建ち並び風情ある集落風景を形成していた。土蔵を持つもの、トタンに覆われながら屋根の形からもと茅葺を思わせるものなどが見られる。川は水路と見紛う細さではあるが、道は右岸側しか通じていない。左岸側の家々には私設橋が架けられているのだが、それがホイストなどで吊り上げられる構造になっているのが興味深い。こちらの方が維持管理も簡単で、また防犯対策にもなるからか。
 一角には「黒谷和紙会館」という施設があり、和紙や紙製品の販売、資料の展示や紙漉き体験などができる。建物の前には「従是南梅迫領分」と刻まれた標石があった。一帯は山家藩の内梅迫領に属していたところである。


 


 
 



 
 黒谷和紙会館  


訪問日:2023.10.21 TOP 町並INDEX