大野の郷愁風景

福井県大野市【城下町】 地図
 
町並度 6 非俗化度 3  −朝市と湧水の城下町−






 

元町(七間通)の町並

七間通で毎朝開かれる素朴な朝市




 大野市は朝市と湧水でよく知られる。市街中心の七間通りでは路端に敷物を敷いただけの、店としては最も簡素な形の露店が並び、地元の野菜や花、工芸品などが売られている。この市が記録に残るのは最も古いもので天和2(1682)年で、非常に長い歴史を持っている。
 湧水も市街随所にあり、御清水のように洗濯など生活用水に使用されているものもある。驚くことに市街南部に湧く本願清水がこの町の水資源の全てを支えているため、大野には上水道が存在しないという。正確には水道の水源がこの湧水なのである。それほど水の豊富な町だ。


本町の町並




本町の町並 要町の町並
 

 市街中心の街路は碁盤目状となっており、東西は「〜間通り」南北は「〜番通り」と名付けられている。これは天正3(1575)年にこの地に入封した金森長近により計画されたものである。町の西にある小高い亀山に築城し、麓には武家町を配置した。長近は短期間で飛騨国高山に移ったが、その後領主が頻繁に交替する中で、次第に城下町は完成されていった。各通りには当時から本願清水より引かれた水路が巡っていたとされ、生活用水や消防等に使用されたといわれており、当時から「上水道」が整備されていたわけである。そして、街路に沿って商家が徐々に集積し始め、越前と美濃を結ぶ美濃街道に沿っていたことも幸いし、特に一番・七間・五番通りには酒屋や呉服屋、薬屋など各種商店が軒を並べていたといわれる。
 現在もこの各街路は、町の商業的な中心として機能しているようだ。この地域一円で特徴的な袖壁を張出した伝統的な建物が随所に見られる。二階部分は袖壁を含め真壁造りが多く、一階は改装されているものも多いが格子が程度よく残されている町家もあった。土蔵も数多くあるが板壁の腰巻がされ、屋根はトタンで覆われている例も多い。塗屋造りでないのは冬に雪が多いからだろう。
 酒屋や醤油などの醸造業、呉服店など古い建物のまま現役で営業されている姿が目立ち、それらの姿からは商品に対する伝統を重んじる姿勢が、安易に建替えようとはしないその構えからも伝わってくるようであった。
 市街のやや東寄り、越美北線の線路に近い位置に寺町通りがある。城下町の建設に際し町人町を挟んで武家町と寺院で囲む計画とした名残である。武家屋敷は他の多くの例に倣い姿はないかわりに、この界隈は寺の門と塀が連続した落着きを感じさせる風景があった。緑が濃く、車の往来も少なく散策には絶好の小路である。
 私はこの一角にある小さな旅館に宿泊し、翌日日の出とともに町を歩いたため、掲載している写真には色温度の低い青味がかったものが混ざっていることを容赦いただきたい。しかし、この町は早朝に歩くのが最適と思う。朝霧のかかる周囲の山々を遠望しながら歩いていくと、七間通りでは朝市の準備をする地元の方々。少し足を伸ばすとまだ利用する人もなく清い水が汚れを知らず流れ出している湧水地。やがて朝市が始まり、普段着の人々と少々の観光客が思い思いに歩き、品々を求めていく。比較的知名度の高い町とはなっているが、それらは観光地の風情ではなく素朴さに満ちている。古い町並の現存度以上に風情を感じることのできる町である。 
 




錦町の町並 錦町の町並(寺町通)



市街地の水瓶である本願清水



訪問日:2007.10.14 TOP 町並INDEX