円城の郷愁風景

岡山県加茂川町<門前町> 地図 <吉備中央町>
町並度 3 非俗化度 7 −門前町を核に地域の中心として栄えていた姿も今は昔−




円城の町並 円城寺の境内




左奥の赤瓦が円城寺で、門前町はその周囲にわずかに残っていた。 円城の町並


円城の町並



 円城は円城寺の門前町として一時は大層な賑わいを示していた。備前48ヶ寺の一つに数えられ、多くの末寺を抱え、僧坊も立ち並んでいた。備前一帯から数多くの参拝者が訪ね、市が開かれ、酒屋・旅籠屋・茶屋などの店舗が連なっていた。
 吉備高原の山中、尾根筋のわずかな平地に展開しているこの町は、立地は決して良いとはいえない。然るにこのような町の発展を見たのは、やはり円城寺の求心力だったのだろう。最盛期には円城村は近隣の商業の中心地となっていた。
 現在の町の雰囲気からはその当時を偲ぶべくもなかった。円城寺は現存するが、その周囲にはわずかに残った数軒の昔の姿を保った町家が、辛うじて歴史のある町であることを証明しているだけであった。しかも取壊されて空地になった姿も目立っていて、集落としての存亡の瀬戸際にも立たされているようにすら感じられた。岡山県はここをふるさと村に指定しており、外部からの訪問者を受入れる施設も見られたが、私が訪ねている間は散策客は全くなく、地元の人がわずか数人歩いているのを見ただけであった。訪ねるだけの景観的器は既にもうないように感じられた。

 一方で門前の道筋の突当りに釣瓶式の井戸が残されている。台地の上にあるこの町は、とりわけ水の確保に苦労したことを示しているようだ。その他、煙出しを構えた大柄な屋敷型の旧家が幾棟か残り、歴史の深みを感じさせてくれる。周囲の丘陵地帯を含め、都会人には忘れられているものを想起させてくれるものはまだ残っているように思う。消え行く残照はもう風前の灯火のようだ。何とか食い止める手立てはないものか。

訪問日:2005.09.19 TOP 町並INDEX