銀山温泉の郷愁風景

山形県尾花沢市<温泉町・産業町> 地図
 
町並度 8 非俗化度 3 −木造多層建の旅館が連続する迫力の温泉街−





銀山温泉街の風景。木造多層建の旅館が連続し、玄関の凝った彫刻や桟、戸袋の鏝絵などが見られる。




 銀山温泉とは曰くありそうな地名である。山形県村山地方北東部、尾花沢市東部の山間にある温泉で、細い谷間に沿って温泉街が連なっている。そのほとんどが木造三階建であり、密度も濃いことで木造建築の真髄を見るような、旅館街の風景は非常に特徴的である。
屋根は銅板で葺いているものが多い。


狭い谷間に沿って旅館群が密集している。 「足湯」からは濛々と温泉の蒸気が噴出している。



 多くは大正期に建設されたもので、建て方も当時の流行を反映してか洋館風となっている。2階・3階部には趣向を凝らした木造の桟、木組を前面に出しながらも漆喰による重量感も感じさせ、また両端の戸袋には鏝絵が見られる。この鏝絵は単に屋号を記したものから、極彩色の風景画、旅館の創始者を刻んだものなどさまざまで、これらを見て廻るだけでも見応えを感じる。屋根は銅板葺、アーチ型のこれも銅板に葺かれた屋根を乗せた入口を持つものもあった。古い町並といっても建築年代は比較的新しいものの、この旅館街から感じる迫力は、他の多くの古い町並の持つものとも違う。
 この温泉は江戸初期に野辺沢銀山の鉱夫が発見したといわれていて、鉱夫たちの疲れを癒していた。銀山は間もなく廃止され、その後は少数の当時客が訪ねる程度だったというが、大正時代の大洪水によって一気に建て替えが進み、その時に現在の旅館街の姿がほぼ整えられたという。
 特に温泉街の最奥部にある能登屋旅館、その手前の旅館長澤平八の並びは、大正浪漫の名そのままの非常に絵になるたたずまいだ。今後は重要文化財や重要伝統的建造物保存地区を視野に入れた保存体制を整えていっていただきたい。その価値の充分にある温泉街である。
 温泉街は道が狭いため、日帰り客・宿泊客を問わず手前の高台で車を降ろされ、温泉街の中は車の姿はない。それがまた頑なに昔日を保っているようで好感が持てる。
 共同浴場もあるが、この町並は旅館に宿泊してこそ価値がわかる。各旅館に灯りのともりはじめた夕刻の風情は格別のものがある。また旅館の部屋からは温泉街を一望することが出来る。泉質も含食塩硫化水素泉で、湯は温泉らしいほのかな硫黄の匂いがする。町外れには銀山の坑道跡が保存され、近くに見応えのある滝もあり浴後の散策も不自由ない。私が訪ねた時には夜に宿泊した旅館の真正面で花笠踊りが披露されていて、陸奥の情緒も思う存分味わうことが出来た。
 










雪景色の銀山温泉街(2006年1月 夢想庵さん撮影)
※「郷愁掲示板」に投稿いただいた画像です。

訪問日:2005.05.21・22 TOP 町並INDEX