御坊の郷愁風景

和歌山県御坊市<門前町・寺内町> 地図 
町並度 6 非俗化度 7 −西本願寺日高別院の門前町−





 御坊市は県の中部、日高川の河口そして太平洋に面する町で人口2万人余りの小都市である。小さな町といえども歴史は深く、また伝統的な町並も連なり訪ねる価値のあるところである。
御坊(西本願寺日高別院付近)の町並




御坊(西本願寺日高別院付近)の町並


 
 町の名は町の中央に鎮座する西本願寺日高別院に由来するもので、地元の人々はこれを御坊様といって崇めていたという。日高別院は御坊舎とも言われ、門前町が形成された。町の東から南にかけて、下川という小川が取囲むように流れており、それを環濠と見立てた寺内町としての様相も示していた。町は南北三筋の通りが建設され、西町・中町・東町と呼ばれており、東町の通りに面して御坊舎があった。
 この旧御坊町は商業町として栄えた。日高川の水運を得て上流の木材が集められ、問屋が立地したほか蝋燭屋、酒屋、そして参拝者のための旅籠など殷賑の町場であったようだ。
 日高廻船と呼ばれる廻船業も有名だった。酒や木材を中心に大坂や江戸などに搬出され、帰り荷に都会の諸物資が持込まれたこともあって、紀州の中でも近代的な町の一つであったのだろう。江戸の中期頃には1000石積程度の大きな船が行き交うようになり、日高組の名で呼ばれていた。港の中心となっていたのが御坊町に隣接していた薗地区であった。
 西本願寺日高別院付近には濃厚な古い町並が残っている。切妻平入りの家並は本瓦の屋根が目立ち重厚さを感じる。1階部の出格子などの意匠も比較的残っているが、それよりも印象的なのが町並の残存度の割に保存の手が加えられていないことである。連続した伝統的な家並がある中で、これほど全く手が加えられていない町並は珍しいと思う。鼠漆喰が風雨に晒され白っぽくなっていたり、本瓦にも苔が生えていたりする。それらは見方によっては寂れた風景ともいえるが、これほどの古い町並の連続があるにもかかわらず自然体というのが珍しく、それが貴重に感じる。
 町並の一角には造り酒屋が伝統的な構えのまま軒先に酒樽を飾っておられ、また路地には洋風建築も残っている。今では余り活気が感じられないこの町に、日高別院を中心とした商業町の賑わいがあったことが迫り来るように伝わってくる。
 この町はまた、紀州鉄道というローカル鉄道でも知られる。旧式極まりない車両で運行されるこの鉄道はJRの駅と市街地が離れていることもあり利用者も少なくなく、生き永らえている。これに乗って訪ねることで、御坊の町並探訪の印象はまた異なったものとなろう。





御坊の町並 薗の町並




薗の町並 西本願寺日高別院

訪問日:2009.03.29 TOP 町並INDEX