八幡の郷愁風景

岐阜県八幡町【城下町】 地図 <郡上市>
 
町並度 8 非俗化度 2 −水と緑に抱かれた奥美濃の城下町−
 




町で最も賑わいの感じられる付近 (左)新町(右)橋本町の各町並
 

 一般に郡上八幡と呼ばれるこの八幡町は、古い町並の残存度以上の印象深さを感じさせる町である。それはこの小さな市街地が一つの町としての景観的豊かさを持っているからだろう。
 近年高速道の開通もあり、八幡は観光地として頻繁にメディアに取上げられるようになり、団体客を含め探訪者が急増している。実際私が訪ねた時も観光的な中心である宮ヶ瀬橋付近は雑踏ともいえる状態であった。しかしこの町の本当の味わいは、観光客の往来する通りから一歩入った横路地や、また水のある風景など、生活と密着した風景が随所に残っている点にある。
 旧市街地は長良川の支流・吉田川の左右岸にわかれ、ほぼ全体にわたって古い町並が残っている。特に左岸側の新町通より南側の小路地区と、右岸側の職人町から本町にかけては袖壁を持つ町家の連なる町並が残っている。新町通や橋本町では間口の広い商家風が主体だが、他はほとんどが小規模な町家で、家並風景のリズミカルさが小気味よく感じられる。これらを一通り巡り、そして宗祇水などの水のある風景を訪ね、町歩きだけでも2時間は必要である。
 奥美濃の城下町と呼ばれるこの町に築城されたのは元禄期(16世紀末)であった。城山の直下に武家屋敷を置き、外側に職人町や鍛冶屋町を配していた。その後吉田川の対岸にも新しい町が造成され、新町・今町・大坂町などと名付けられた。右岸側の各町が現在でも八幡町という名を冠しているのは、城下町建設当初からの狭義の八幡町域を示しているものと思われる。
 城下町は大きな戦乱や騒動に巻き込まれることもなく維新まで平和が保たれたという。それは西を長良川に、そして南北を丘陵地に挟まれ自然の要害となっていることも大きかった。最も有名なこの町の行事に郡上踊りがあるが、そのような伝統行事、文化や風土がはぐくまれたのも自然なことであったろう。
 




愛宕町の町並 職人町の町並(正面は長敬寺)





 先にも少し書いたように、この町の風景には水が非常に密接に結びついている。宗祇水は正式には白雲水と呼ばれ、町の人々の生活の場となり、また町を訪ねる観光客が必ず立寄る一角である。その他水路と古い建物との調和を図った小路などが点在している。一方対照的に吉田川は、流れの中に岩の突出したような荒々しい風景が家々を背景に展開しており、水量も多い。夏になると橋上から子供が水に飛込んで遊ぶ光景もよく紹介されるところである。このような水風景が町の奥ゆかしさを醸しているかに感じられる。また、各家には防火用のバケツが提げてあり、一つの風物詩ともなっている。それは通りの側溝に豊かな水があることを示している。これもまた水の風景のひとつと言える。もっともこれは明治期の大火の教訓ともいわれ、そのため江戸期に遡るような古い建物は見られないのだが、このような町は以後に一斉に再建された家々がそのまま古い町並となっているわけで、統一感を見るものに与える。
 宮ヶ瀬橋を要に新町通や宗祇水付近は土産物屋なども乱立していて観光地然としているが、一歩裏小路に入るだけで家並から生活の色がにじみ出ているような風景が残っている。探訪客の多さの割に町の出で立ちの自然体さの度合はまだ高く、古い町並としての均衡は十分保たれている。
 今後観光地化の方向に傾倒しないよう、くれぐれも祈りたい。
  
職人町の町並


大坂町の町並




常盤町の町並 所々に水のある風景が展開する
訪問日:2007.10.14 TOP 町並INDEX