初瀬の郷愁風景

奈良県桜井市<門前町> 地図
 
町並度 6 非俗化度 4 −長谷寺の門前町−




長谷寺門前の町並
 

 この町の中心をなす寺院の名は長谷寺であるが、門前町の地名はかつて長谷・始瀬・波都瀬・播都制・波都勢・簸都細・泊瀬などとも書かれ統一されていない。現在では桜井市初瀬となっている。
 長谷寺は桜井市東部の、奈良盆地が途切れる辺りの山裾にある真言宗の寺で、7世紀に遡るといわれる古い伝統に培われた寺だ。牡丹、そして晩秋には紅葉の見所として知られ訪問客を多く受け入れている知名度の高い寺院である。地元には長谷の観音さんと呼ばれ親しまれている。
 この寺の詳細に至るまではここで深く言及しないこととして、門前の町並に絞って紹介したい。
 近鉄長谷寺駅から一度谷間に下り、反対側の山腹にある寺までは徒歩約20分ほどである。国道を横切りると間もなく山裾を通る街道にぶつかり、この道に沿って長谷寺の門前町が展開している。
 平入りで袖壁を従え、虫籠窓などこの地方一帯に標準的な古い町並の姿だ。但し門前町という性格上、開放的な雰囲気の町家が多い。間口もやや広めのようで、街道幅もゆったりしている。
 嘉永3年(1850年)の記録によれば、ねずみ屋・扇子屋・吉野屋・檜皮屋・堺屋・紀の国屋など多くの宿があり、参詣客で賑わっていたことがわかる。またここは畿内、大和から伊勢に向う街道(伊勢本街道)の道筋に近く、伊勢参りの傍らに寄る旅行者も多かったことも、門前の町並の殷賑に寄与していた。
 今ではかつてにくらべ純粋な参拝客は少なくなったのだろうが、長谷寺に向う一本道を歩いていくと典型的な門前町の町並が展開していくことに気付く。街道は途中で大きく北に曲りながら登り勾配になり、その前後から古風な土産物屋が目立ってくる。「はせみやげ」と称されたそれらを扱う店は、葛を原料とした和菓子をはじめ草餅、吉野地方を中心とする柿の葉寿司、三輪素麺などを商い、古い構えのまま営業されているものも多い。この辺りまで来れば、厳かな雰囲気の仁王門は近い。
 この街道筋は大和盆地南部にあった高取藩主の参勤交代の通過路ともなり、本陣や脇本陣も置かれたというが、大火や洪水などの災害に度々見舞われており、現在に残る家々は「初瀬流れ」と呼ばれた文化8年(1811年)6月の災害以降に建てられたものであろう。しかし国道沿いから際どく外れたため伝統的な門前町は近年になっても大きく更新されること無く温存され、古い町並の雰囲気を濃く残していた。








門前の町並 門前の町並






門前の町並

長谷寺の仁王門
訪問日:2004.07.28 TOP 町並INDEX