黒島の郷愁風景

山口県岩国市<漁村・農村集落> 地図
 町並度 5 非俗化度 10
  −独特の集落形態を見せるもいつまで維持することができるか−


 
 黒島は周防大島の北側、柱島諸島と呼ばれる群島の一つに数えられ、岩国港から数往復の船便で訪ねることができる。
 島の歴史は比較的新しいといってよいだろう。柱島の属島のような扱いで、農家による牛の放牧場であったというが、天保元(1830)年に入植が行われ、畑地として開拓されたという。
 
 以後は漁業に重心を置いた半農半漁の集落として生計を立ててきた。付近の海域は鯛やスズキの一本釣り、鰯や鰆の好漁場でもある。
船着場から見る黒島の集落  


 


 
港付近の町並 
 

 防波堤に囲まれた港につながれた船はその数も今や少ない。平成29年の調査では人口24人とのことである。海岸線を囲んで意外にも立派な構えの邸宅が数軒見られた。土蔵を従えたものもあり、入母屋の堂々たる屋根を持つものもあった。但し多くは空き家であり、植生に覆われた痛々しい姿のものもみられた。
 この島の集落の特徴は港から見える所とは別にある。北側に小さな岬をまわると、斜面を駆け上がるような一本道に沿い家々が密集している。台風などの風波を避け、港に近く比較的傾斜が緩い場所を選びある時期に造成されたのだろうか。多くは街路に妻面を向け櫛型に建てられており、所々に畑があるが思わぬ密度の高い家並で、今となっては古い町並的な雰囲気も感じられる不思議な集落であった。
 港と集落を見下ろす神社の鳥居前には「黒島開島百五十周年記念」の石碑があったが、今は医院はおろか店舗も一切ない島である。小学校も休校となっており、その建物の立派さからはかつては人口も多く賑わっていただろうことがわかる。
 一通り探訪を終え待合室で船を待っている間、年配の二人の婦人とお話しする機会があったが、第二次大戦時に空襲被害を受け、子供も多く犠牲になったとのことである。こんな小さな島にもかかわらず、そのような暗い歴史を有していたとは驚きである。現在はその子供も皆無になり、いつまで集落として命脈を保つことができるのか、そちらのほうが問題となってきているようだ。
 


 


 
 高台上の集落 一本の坂道に沿い密集した家並が展開している


 


 
 高台上の集落

訪問日:2019.12.08 TOP 町並INDEX