八塔寺の郷愁風景

岡山県吉永町<門前町に由来する農村集落> 地図 <備前市>
 町並
(集落景観)度 6 非俗化度 3 −茅葺民家の里 山岳仏教の中心地であった−





 八塔寺集落の風景 奥の一段高い位置に八塔寺が見える 八塔寺の茅葺民家




八塔寺境内から見下ろす集落の風景 資料館として無料公開される民家




長閑な山村風景が広がっている



岡山県の東南部、兵庫県に接する山中に八塔寺集落はある。ここは山岳宗教の中心地として類を見ない繁栄を示したところである。
 神亀5(728)年に聖武天皇の勅願で創建された天台宗八塔寺。備前で最も高い八塔寺山の山頂近いわずかな平地には、その他多くの寺院や最盛期には72もの僧坊があり、「西の高野」とも称され、山上仏教の道場として栄えていたという。
 その後兵火が度々この地を襲い衰退したが江戸期に復興した。しかし真言宗との勢力争いが続き、寺領を巡って対立した。文政11(1828)年に岡山藩が調停に入り、両宗で分割することになったが、かつての賑わいを取戻すまでには至らなかった。近年の過疎化もあり、現在ではわずか十数棟の民家が、田園の広がる狭い平地に沿って点在するだけになっている。
 しかしそれらの家々が大半が茅葺であることは特筆に価する。人口の流出を憂い、住民が早くから自然とともに家並を意識して残してきた結果だろう。良質の茅の入手は困難で、しかも屋根の葺替えに技術と手間を要するため、全国的にもまとまって残っている地域は非常に少ないといってよい。貴重な集落である。
 岡山県の「ふるさと村」として知名度も高く、農村の原風景を求め訪問客の姿も少なくない。しかし近代的な建物は一軒もなく、土産物屋すらない。あるのは緩やかに起伏する丘と谷、穏やかな田園風景ばかりである。そしてそれらを背景にして点在する茅葺民家は違和感なく自然に溶け込み、季節ごとの風景にも調和してふるさと村と呼ぶにふさわしい集落景観が訪ねる者に安らぎを与えてくれる。
 無住となっている家も眼につき集落としては風前の灯火のようにも感じられる。どうか火を消さないよう願うとともに、今後も景観を人工的に損なうことなく、茅葺民家群が存続されていくことを期待したい。


苔むした茅葺屋根


訪問日:2003.11.23 TOP 町並INDEX