落合の郷愁風景

徳島県東祖谷山村<山村集落> 地図  <三好市>
 
町並(集落景観)度 6 非俗化度 6 −祖谷地方の典型的な斜面上山村集落−



 一般に祖谷地方と呼ばれる県南西部の山間地域、吉野川沿いとは山地で隔てられ独自の地域性が展開される地区である。祖谷川の谷が東西に伸びており、その東は剣山が聳える。急峻な崖に囲まれた細い谷や斜面に集落が点在しており、そのような地形のためか大規模な水田の造成は難しく、煙草、現在でも祖谷そばとして広く知られている蕎麦、そしてミツマタなどが主要作物であった。特に葉煙草は換金作物として主要産業となっていた。
 祖谷川の谷は深く、家々は谷間にも展開しているが、斜面上に立地するものもかなり多い。耕作地を得るためには谷底に居を構えるより好都合であったのだろう。
 その典型的な例がこの落合集落といわれている。歴史は古く、南北朝期に落合氏が菅生氏等と南朝方として戦を展開したという記録が残っており、その後江戸時代に入る前にはこの地に定着したとされている。山村集落としての独特の構造と、歴史に根ざしたその価値は高く、集落系としては数少ない重要伝統的建造物群保存地区の一つとなっている。
 谷底の国道439号線から集落への入口は急坂ではあるが、その後は比較的等高線に逆らわず羊腸と山膚を巻きながら谷からの比高約400mの集落頂上に達している、もっともこれは自動車社会を迎えてから整備されたものと思われ、本来は斜面とほぼ直角に駆け上る道と、それに直行し等高線なりに伸びる横道とで構成されていた。その横道沿いに住宅が建てられた。それら里道も原型を良く留めており、保存地区に指定された一要因であるという。
 そのため耕作地も家々も等高線に服従し斜面に平行的に配置されている。耕作地面自体も傾斜しているのはこのような斜面上集落では珍しくないことだが、家々はさすがに水平な宅盤の確保に苦労した色が伺える。多くでは谷側に石垣を積上げることで克服しており、それも宅地を造成する際に出てきた石を丹念に積んだものだという。
 その様子は谷を挟んだ対岸の中上集落から一望できる。山腹一杯に展開する集落と耕作地は迫力がありながらも自然と絶妙に調和したようで、人工色は感じられない。
 一方で谷間の国道沿いにも宿屋や商家などのたたずまいが一部見られ、趣を感じさせる。山村地域の細々とした物流とはいえ、祖谷の主要な交通路はこの谷間の道一本であるので、わずかとはいえその残影が見られるのだろう。
 


落合集落の風景(谷を挟んだ中上集落側より)




住宅や耕地は等高線に沿い設けられている




中上集落の風景




谷間沿いの国道にも旅館や商家などの建物が見られる

訪問日:2012.09.23 TOP 町並INDEX