小川の郷愁風景

奈良県東吉野村【在郷町地図
町並度 6 非俗化度 8 −吉野杉の産地として繁栄した−





小川の町並 重厚な商家建築が残っている


 東吉野村はその通り吉野地区の東部、三重県に接する山間部にあり村域の95%をも山林が占める。わが国で最後に狼が捕獲されたところとしても知られている。
 中心集落の小川は吉野川(紀ノ川)支流の高見川とその更に支流の四郷川が合する位置にあり、わずかな平地に立地している。古くは小川荘が存在し、興福寺の大乗院門跡の領地であった当地において、小川氏は大乗院の代官として一帯を支配下に置いていた。
 藩政時代は郡山藩領で、川の合流点に位置していたこともあり付近山林の物資の集まるところで、在郷商業町として発達した。紀州から伊勢方面に向かう街道も通過していたこともその賑わいに寄与していたようだ。とりわけ豊富な山林を後背地に持っての林業が盛んで、大坂などの膨大な消費を満たすため、杉や檜の植林が付近一帯で行われ、吉野杉と呼ばれる良材の産地となった。殊に酒造地灘の酒樽には吉野杉が最適とされ、高い需要があったとされる。木材は筏に組まれ、高見川の水運を利用して続々と下流に運ばれた。一例を挙げると天明4(1784)年以降10年間では、平均1万5000床もの筏が川を下ったという。明治以降も林業の町、地域の商業的中心として息づいていった。
 幹線道路が通らず、吉野地方の中でも比較的地味な位置にあることから町の風情にも素朴さが残されていた。しかしながら残存する家々には風格を感じさせるものが多い。木質感が高いのはさすが杉の産地らしい構えであり、間口は総じて広く豪商を思わせる旧家もある。古びた家並が連なる1.5車線の町の中心道を路線バスが通過していくのはこれまた風情を感じさせるものだ。
 町の規模はささやかなものではあるが、古い町並として良質なものが残されており、訪問する価値のあるところである。









訪問日:2011.08.13 TOP 町並INDEX