比良松の郷愁風景

福岡県朝倉町<商業町> 地図 <朝倉市>
 
町並度 5 非俗化度 10  −蝋の生産で栄えた名残が僅かに残る−






比良松の旧市街。入母屋造り妻入りの町家が並んでいます。



 

 朝倉町は筑後平野の北東部に開ける農村地帯である。最近になって大分自動車道も通り、交通も便利になった。三連水車(下の画像)で有名な町であるが、中心集落の比良松には古い家並もある。国道386号線の一本北側に残り、町並としてはまず紹介されることはない。実際全体を歩いても5分とはかからないほど小規模な町並だが、質的に優れた町家が連続しているので、郷愁風景として紹介する。
 近隣有数の農村地帯としての位置は古くから築かれていた。筑前国上座下郷とされたこの一帯では稲作が盛んで、上座米は国中の最良品といわれた。また、芋などの根菜も盛んであったが、18世紀半ばの宝暦年間に、現在の杷木町で始まった煙草の栽培が当地にも伝播し、上座煙草としてこれも名産品となり、各地に輸出されるようになった。さらに蝋の生産も藩の財政上から重視され、この頃周辺の松林を伐り拓いて原料である櫨の木を植え、増産に努めたという。この地方は当時全国に名を馳せた筑前櫨の一大中心地となった。
 入母屋の屋根を持ち、妻入で漆喰に塗込められた大規模な町家は、それらの産業で繁栄したその頃よりこの比良松に建てられたのだろう。一階部分も当時のままの格子が残る物も多く、犬走りなどの意匠も見られる。防犯の色の濃い大戸ではなく全面格子を採用している旧家が多いのは、主要街道に面することなく治安を気にする必要の少ない農村地帯だったからだろうか。これら町家の規模から考えても、煙草・蝋産業はかなりの富をもたらしていただろうことが察せられる。
 稲作の盛んな地帯で筑後川に面する地ながら、この地域は水に関する苦労が多かったようである。河岸の低地に位置する付近一帯は氾濫等の被害をしばしば蒙った。川は筑後との国境にもあたり、境界を巡って対岸と争議が絶えなかったともいう。筑後川から上座一帯に水路が開削され、水田は灌漑されたが、物資を博多まで運搬するため、運河を拓いて浅船を通す計画が着工された。しかし途中に分水嶺などもあり中断された。二日市(現筑紫野市)と博多を結ぶ堀川が開削され、当地の産物はここから水運に頼ったが、水量不足などでこれも充分に活用できなかったという。三連水車など水車が今でも多く残ることからも、当時の苦労が伝わってくるものである。
 
朝倉町の代名詞ともなっている三連水車は
治水・利水の苦労の跡を示しているようです。


訪問日:2003.03.23 TOP 町並INDEX