市場庄の郷愁風景

三重県三雲町【商業町・街道集落】 地図 <松阪市>
町並度 7 非俗化度 6  −伊勢街道上に開けた商業町−





妻入・板壁の家屋が多く見られる市場庄の町並
 

 伊勢の道は全て神宮に通じているといわれ、この市場庄の町中を南北に貫くのも伊勢街道と呼ばれる。鉄道開通以前はこの街道は参宮客が頻繁に通行し、宿駅や休息地が多く栄えていた。松阪市の北部にあるこの市場庄もそんな町の一つである。
 この町は北側に接する六軒町が宿駅だったため、特に宿地としての機能はなかったようだが、かつては数軒の旅籠も存在していたという。六軒は大和方面から伊勢参宮に向う初瀬街道との追分の宿で、南に続く市場庄は松阪城下を控えた街道上の商業地といったところだろう。もともと零細な農村に過ぎなかったのが、往来の増加で次第に商業町的な意味合いを帯びていったものと思われる。参宮者の土産物屋や旅装束を商う店が並んでいたといわれ、背後に畑地や田地を持ち農業で生計を立てながらも、旅人相手の商売が盛んに行われていったのだろう。「市場文楽」などともてはやされた娯楽や浄瑠璃なども上演されたといい、旅の者のみならず近隣住民にも魅力的なところだったらしい。
 伊勢街道に沿い線状に続く町並は、隣との取合いに適度な余裕があって、都市型の町並のようにぎすぎすした感じでないのも、もともとは農村集落だったことを感じさせる。
 構成する家々は独特の外観を保っていた。一部に平入りもあるがほぼ全体が妻部を街路に接した姿を示し、伊勢地方らしい板貼りの壁を持っている。一階正面には格子が綺麗に保たれていて、また軒下には幕板が見られ、側面にまで回されているものも多い。間口も全般に広く、商家としても大規模だったらしい構えが多い。各家に昔の屋号が示されているのは、いかにも生々しかった。全体に「木造の美しさ」を感じさせる町並である。
 道筋は常に緩やかにカーブを描いていて、現代に入って開発された街路ではないことが証明される。先の風景が家々で妨げられ、歩いていくほどに妻入り町家が次々と現れてくるその風情は格別なもので、市場庄の町並を一層奥行深いものとしている。家並は南北1km以上にも連なり見応え充分である。
 屋号の表示など、地元の方はこの町並を意識した活動をされているようだが、重要伝統的建造物群保存地区にも匹敵するような町並であるだけに、今後の動向を見ていきたい。
 









僅かずつ曲線を描く一本道に沿って家並の続く街道集落らしい風景が展開する。


 
町の南外れの久米地区の町並

訪問日:2006.07.17 TOP 町並INDEX