櫟本の郷愁風景

奈良県天理市<商業町・街道集落> 地図
町並度 6 非俗化度 8 −街道沿いに古代から市場が発達した町−








櫟本町の町並


 桜井線に櫟本という駅があり、その独特の響きから印象に残りやすい駅名である。いちのもとと読み、櫟はイチイという針葉樹のことである。もっとも地名の由来は櫟ではなく古代に市が開かれていたことによるという。
 その由来どおりここは市場町として発展しており、奈良盆地の主要街道の一つである上街道にも面していたため商業が発達した。江戸期には大庄屋も配備されており、垣内(かいと)と呼ばれる街区ごとに年寄や肝煎を置いた。一大商業町として位置づけられていたのである。
 古くから街道の要衝でもあった。上街道からは東西に枝道が派生し、西方面は竜田(現斑鳩町)へ、東へは谷沿いに宇陀の丘陵地を経て伊勢方面につながっていた。現在も西名阪道・名阪国道がここを経由しているのもうなづける。
 奈良盆地東部では有数の商業規模を誇ったところであり、現在でも商家を思わせる古い建物が多く残っている。袖壁、一階部の目の粗い出格子、虫籠窓のつし二階建が目立つ奈良盆地らしい家々は旧街道のみならず、細い路地にも展開しており、面的に商家が林立したであろうさまが見て取れる。そして辻のあちこちに地名が刻まれた道標が残っており、徒歩時代の旅の面影が濃く残存していた。
 濃厚な町並が全く着飾らないまま残っているのは奈良盆地独特のもので、それは大規模な都市化が行われていないことと史跡や寺社など他の文化財が着目される一方で町並・家並そのものには余り着目されることが無いためだろうと思う。
 







訪問日:2012.07.15 TOP 町並INDEX