赤松・大宗の郷愁風景

徳島県一宇村<山村集落> 地図  <つるぎ町>
 町並(集落景観)度 5 非俗化度 9 −麓からの比高が極めて大きい斜面上山岳集落−





 
 
谷間の対岸から赤松・大宗集落を望む


頂上側の大宗地区 寺院が見られた(左)


 四国山脈は地味な印象を受けるが、石鎚山・剣山など2000m近い山もあり、また地勢は嶮しく急峻な峡谷をなしている地区も多い。
 特に南東部に位置する剣山山系は重畳と山岳地帯が連なり、また太平洋岸に向けて聳えていることもあり、有数の豪雨地帯でもある。
集落の面で四国において特徴的なのは、その急峻な山腹に集落や耕作地が多く見られることだ。それはけわしい谷間に沿う地区のみならず、一部では幹線道路沿いなどの一見比較的開けた地区でも見られる。耕して天に至るという言葉があるが、むしろ天だけ耕したといえるような集落風景もある。
 ここで紹介する赤松及び大宗地区は吉野川の支流である貞光川の水系にある。地図を見ると一宇の中心集落からは平面的にはすぐ近くにあるようにみえるが、町からは見上げるほど高い斜面にあり驚かされる。
 現在では住居表示上ではすべて一宇一本であるためその境は定かではないが、集落の麓側が赤松、頂上側が大宗地区といわれるらしい。何しろ川沿いの標高は300m弱なのに対し、大宗地区の最上部は800m近くであり、比高は約500mにも及ぶ。一つの山腹にこれほどまでの標高差にわたって集落が立地する例は、恐らく他には無いものと思われる。
 貞光川沿いからつづら折りの坂道を延々と登って集落の上部に達すると、谷に向って転げ落ちるといっても過言ではないような傾斜地に家屋と耕作地が展開している。谷間は水田が立地しえぬほど狭く、多雨地帯のこの地方では水害の懸念のある谷底より斜面を耕し生計を立てるほうが堅実で賢い生活だったのかもしれない。集落のほぼ最上部に立派な寺が鎮座しているのを見ても、それを感じた。
 


 一部にはハデと呼ばれる雑穀類などを天日干しするための木組も残っている。またトタンで覆われた屋根はかつて萱葺きであったことを示しており、典型的な山村集落が古くから形成されていたことを証明している。
 ふもとの町の方から、この集落では「世界農業遺産」と題して集落景観を含めた伝統的な山農村の形態を守るべく意識されていることを聞いた。今後の動きに注目したいところだ。
ハデと呼ばれる農業設備の残る民家




麓に近い赤松地区の風景

訪問日:2012.09.23 TOP 町並INDEX