辻の郷愁風景

徳島県井川町<産業町> 地図 <三好市>
 
町並度 6 非俗化度 10  −煙草産業で栄えた町並が素朴に残る−







辻の町並


 徳島県の西部、吉野川の流域に開ける井川町は隣の池田と同様、煙草産業で栄えた町である。ここでの煙草栽培は17世紀に始まるとされ、元禄の頃には刻み煙草の専門業者が現れていた。吉野川の水運を利用して、平田舟で徳島へ送られた後全国に輸出され、煙草商人が多く台頭した。煙草の栽培には日当たりの良い山の斜面が適し、この付近の吉野川は狭い平地を経てすぐに急傾斜の山地が迫る地形であり、また舟での出荷にも事欠かず、煙草産業が立地するにふさわしい土地といえる。
 また、養蚕も古くから盛んな土地で、西部の佃地区を中心に紬織の生産も全国に著名だった。
 町場は、吉野川に沿うというよりも、その支流沿いに展開する谷口集落といった展開を示す。しかしそのことが、後の国道に潰されることなく古い町並が残される結果となったといえよう。
 支流の段丘上の緩い斜面に、メイン街路は極力傾斜を避けて建設されたのだろう、細やかに曲線を連ね歩く先の視界は家並で占められる。その点がこの町並の魅力であり、次にどんな家並が現れるのか、期待感を抱かせる。
 所々に間口の大きな見応えのする旧家が残っているのは、煙草の商人だったのだろう。町を歩いていると、現在でも煙草屋を営まれている主人が現れ、ここは池田よりも栄えていたと言われていた。明治中期の記録によると、煙草業者の数は池田の24戸に対し11戸とあり、それは過言かもしれないとしても、商業町であった名残はうだつに感じられる。瓦を載せた本格的な袖うだつの他にも、土壁を無造作に街路に向けて突き出したような素朴なものも見られ、吉野川流域の町並らしい風情を醸し出していた。




うだつのある重厚な町家  
訪問日:2007.03.25 TOP 町並INDEX