今立の郷愁風景

福井県今立町<産業町> 地図 <越前市>
 
町並度 5 非俗化度 8 −越前和紙の中心地−




今立町中心部にはこのような北陸の古い町らしい家並がまだ少なからず残っています。




 妻入りと平入りを合体させたような「かぐら建て」の旧家も見られました。




集落の中心を流れる鞍谷川沿いの風景  町の北部の山裾には寺院が多くあり、この付近にも古風な町並が連なっています。
 


 今立町は和紙の里である。美濃・土佐などと並び、越前和紙の名は全国的に知られており、当町はその生産の中心地である。この地で和紙が生産されたことで、記録に残る最古のものは8世紀にも遡る。平安期には政府指導のもとこの越前の地に紙を増産するよう命じ、平野から山間部に差しかかる地形で紙生産に欠かせない良質の水が豊富であったこともあり、そのままこの今立に産業として根付いたようである。
 ここで産出される和紙は奉書(儀式等に使う上質紙)や紙の王と呼ばれた鳥の子紙など高級で、しかも丈夫なものであった。
 安永4(1775)年には紙漉を業としていた者は246軒にも上っており、仲買人も多数存在していた。背景には小国である割に寺院が多く需要が多かったことや、原料の楮(こうぞ)が豊富であったこと、業者が増えるに従い品質を競うようになったこともあったのだろうが、現代でも和紙産業は繊維業と並んでこの町の基幹産業となっている。
 町は和紙の里会館や和紙の里通りなど、外部にアピールする場を全面に出しているが、ここでは旧市街の中心に広がる町並を紹介する。
 この粟田部地区は国道からそれると古い家並と路地が支配していた。町家の標準的なスタイルは平入りで2階の両妻部に防火用の袖壁を備えている。それらは近畿地方を中心に見られるものとは異なり、梁組が剥き出しになっており先端部が金具で補強された北陸独特の外観を示していた。また一部には、妻入りの建物の前面に平入り町家の軒先を押付けたような、この地方独特の「かぐら建て」も見られ、特徴ある町並景観であった。
 しかし、町並に余り活気が感じられないのが気になるところで、空家となっているものも多く見受けられ、この古い家並も今後消滅してしまうのではないかという思いを抱いた。和紙の里資料館付近とは対照的な姿に、もどかしさを感じながら帰路についた。
 


訪問日:2011.11.03 TOP 町並INDEX