伊根の郷愁風景

京都府伊根町<漁村> 地図
 町並度 7 非俗化度 4 −湾に沿って舟屋が連なる独特の漁村風景−
  
集落の最奥部・亀島の町並




日出の町並 平田の町並
 


 伊根町は京都府の北西部、丹後半島の北東側に広がる町である。山がちな半島が直接海に没している地形のため平地に乏しく、町の中心は伊根湾に沿って細長く、屈曲しながら続いている。
 その集落景観は非常に特徴的で、海岸線に従い曲線を連ねながら山側は平入り主体、そして海側は妻入りでほぼ統一された家並である。
 その独特さは海から訪ねると一層際立つ。海側の舟屋と呼ばれる家々は海に対して一階部分を大きく開放し、そこに小船を収納する仕組になっている。街路から波打際までの土地は傾斜しながら低くなり、船屋一階には海水が侵入する。舟屋と舟屋のわずかな隙間は波が打ち寄せ、所々に見られる家屋のない空地はそのまま船着場、船の修繕場となる。山側を主屋としている家庭が多いことから、海から見ると小さな舟屋の上に主屋の屋根がかぶさっているような印象を受ける。
 このような構造になっているのは、山が海に接して極めて平地が乏しいことと、冬の季節風や外海からの波の影響が少ない南に向って開いた湾であること、しかも湾は深く湾口の青島によって波が緩和されることで、舟屋前面の海は常に穏やかであることなど複数の好要因が重なって、穏やかな舟屋の漁村風景が成立っているのである。
 伊根湾遊覧船の発着する日出地区より断続的に幾つかのまとまった集落があり、それらは小さくくびれた入江に固まっている。入江の対岸に小さな舟屋の密集する風景はえもいわれぬ独特さがあり、心安らぐものを感じることができる。
 伊根は鰯など近海漁業が江戸に遡るはるか昔より盛んで、特にブリの好漁場であり「伊禰浦鰤」「丹後鰤」の名は全国に知られ、寛文年間(17世紀後半)には漁場と田畑を一体とした株組織を作って漁場や漁獲を共有化させ、亀島村には船番所も設けられていたという。
 漁業はほとんどが湾内か近隣で行われたので、船も小さく舟屋も小規模なものでよかったのだろう。しかしかつては時折鯨が湾内に入ってきたこともあり、その折には100隻近くの漁船が出て捕獲したのだという。
 舟屋の中に入ると海風が心地よく通っていた。風があれば夏でも比較的過しやすいという。舟屋の柱材などにはその塩分を含む海風に強い椎の木などが使われ、それは背後の山にふんだんにあるという。魚つき林と呼ばれるように背後の深い木々が湾を潤し、好漁場を保ってきたのだろう。絶妙のバランスのとれた集落である。
 近年連続テレビ小説の舞台となったことや、町並紹介本などでも頻繁に紹介されるため訪れる人も多く、やや有名になりすぎている感も否定できないが多くの客は丘の上にある道の駅を訪ね、遊覧船に乗る程度で、細長く連なる町並を歩く訪問客はそれほど多くない。幾つか客を迎え入れる施設もできているが大半は自然体であり、素朴ないい雰囲気の漁村集落が展開していた。
 
 




亀島地区の岸辺風景 日出地区の岸辺風景



舟屋風景(遊覧船より)★



舟屋風景★
 
 ★印は2004年8月、他は2006年5月撮影


訪問日:2004.08.13
(2006.05.27・28再取材)
TOP 町並INDEX