五十沢の郷愁風景

山形県村山市<農村集落> 地図
 
町並(集落景観)度 5 非俗化度 6 −茅葺民家が多く残る自然に抱かれた集落−



 五十沢(いさざわ)は山形盆地の北東の外れ、宮城県境に連なる山々の懐に抱かれたような小集落である。
 国道13号を尾花沢市南端付近から南東に約5km入った位置にある。五十沢川という小川に沿いなだらかな谷間に田園地帯が広がり、茅葺屋根の民家が散在していた。


五十沢集落の風景



新緑を背景に絵を思わせるような農村風景であった。




長年の増改築に複雑な姿をした民家も見られる。 農業倉庫のようだが小さな煙出しが。
 

 
 この地方は全国的に見ても茅葺屋根の家の比率が高い方だが、特にこの五十沢集落は程度よく残っているとして、雑誌などに紹介されることも多い。
 街道筋に町家が連続するような町並とは違い、所々に散在といった感じで体裁的には古い町並といえるのかどうかは疑問であるが、観光地ではなく、また特別な保存もされないままに実際各家で生活が営まれている集落として、この茅葺民家群は貴重である。造りも寄棟と切妻が混在し、主屋から農機具小屋までさまざまな建物が茅葺である。中には、東北独特の厩舎を屋内に取入れた「曲り家」形式を保つものもあり、入口が平面的に前面に張り出した「中門造り」など、積雪地帯であるこの地の冬を過す智恵が家々の構造にも現れている。
 雪の多い土地での屋根の維持は大変と思われるだろうが、ここでも生活の智恵がある。一般に数十年に一度、茅葺屋根は全面的に葺替えを行うのが一般的だが、ここでは茅の傷んだ部分だけを取替える「差し茅」と呼ばれる修繕方法を頻繁に行いながら維持されてきた。常日頃から屋根を労わりながら守ってきたこれらの家々を見ると、確かに痛んで荒れた屋根は見当たらない。屋根の上には小さな煙出しもいじらしく取り付けられていた。
 それら地元の方々に加え、市や県、大学などの取組で平成7年より「五十澤かやぶきの里」景観事業が進められてきた。冬季の雪下し作業や草刈、河鹿の放流など地味な活動ではあるが、それらにより得難い山里の風景が維持されているといえる。山間部の過疎地にあるこの小集落の維持は大変だろうが、地味ではあってもこのような景観は非常に稀少性の高いものになってきている。途切れさせることなく続けて頂きたい。
 訪ねた頃は新緑の時期、瑞々しい緑と水の張られた水田との取合せが絶妙であった。自然景観あっての集落風景である。但し少し知られてきているのか、訪ねている間も首都圏などからの乗用車も時折入ってきていた。このような集落は有名になると特にその弊害が大きい。これ以上の俗化には歯止めをかけてほしいものだ。
 

訪問日:2005.05.22 TOP 町並INDEX