伊豆稲取の郷愁風景

  静岡県東伊豆町<漁村> 地図
 町並度 3 非俗化度 7  −中世より発達した東伊豆地区随一の漁村−



 
稲取の漁港風景
 

 稲取地区は東伊豆地区の南部、東を太平洋に面し伊豆大島に対峙する位置にある。小さな入江は漁港が発達し、それを取り巻くように市街が発達している。海岸部は温泉もありホテルや旅館が立地する観光地ともなっている。
 鎌倉幕府の開府後、当地から鎌倉への往来が盛んとなり港が発達したとされ、中世までには海運の重要な拠点として整備され、紀州から来た鈴木一族により管理されたと云われている。江戸期の多くは駿河沼津藩領であり、寛政期の『豆州村々様子大概書』によると既に2,000人余りの人口を有し大きな集落を形成していた。江戸に近いということも漁港の発達に寄与するもので、「押送り船」により鮮魚をはじめ鰹節・干物などの加工品が続々と江戸に運ばれた。また一帯で産出される良質の伊豆石は、江戸城築城をはじめ多くの構築物に使われ需要が多く、稲取港からも多くの石が積み出された。
 また付近海岸で豊富に採取された天草は藩に注目され、生産や物流全てを藩が管理していたという。
 国道から港への坂道を下ると建て込んだ家並の中に入り、そのまま漁港に突き当たる。海岸沿いは近代的な港湾関係の建物や商店などがあり、古い町の姿があるとは想像しにくい。漁村として家々が密集していたため火事が多く、明治から大正にかけても度々大火に見舞われた。そのため古い建物は多くが焼失しているようだ。


 
 



 
 


 


 
 
 そんな中にあって、小路には所々歴史を感じることの出来る風景もあった。商家を思わせるような建物もあり、一部には二階に木製欄干を持つものもあった。伊豆石は蔵だけでなく一般家屋に用いられている例も少なからず見られた。防火対策なのだろう。火災の影響が少なければまだ多くの建物が残り、古い町並を有していたのではと思うと少々残念ではある。
 しかし漁村らしい佇まいは東伊豆地区随一のものであり、漁港を通して見る風景も美しいものがあった。
 


訪問日:2022.04.11 TOP 町並INDEX