出雲崎の郷愁風景

新潟県出雲崎町【港町・宿場町】 地図
町並度 7 非俗化度 5 
−佐渡の金銀の陸揚地・北国街道の宿駅として栄えた妻入り民家の連続する町並−
 




尼瀬地区(町域西部)の町並

 

 出雲崎という地名は聞くだけでどことなく旅情を感じさせるものがある。
 「荒海や佐渡に横たふ天河(あまのがわ)」とは芭蕉がこの地で詠んだものといわれている。家並の向うはすぐ海であり、私が訪ねた時は生憎その姿は見えなかったが佐渡島に対峙する町である。
 ここは佐渡の玄関口となっていただけでなく、島で産出された銀や金が陸揚げされた重要な土地だったのである。そのため江戸時代は幕府の直轄地となり、また北国街道(北陸道)もここを通過し、町は宿場町の扱いを受けていたことも町の発展に大きく寄与した。
 町は南西端の尼瀬地区から幾つかの町区に分かれ、東北端の井鼻地区までおよそ3.6kmにも及ぶ長いもので、途中何度か大きく街路が折れて視界が遮られる宿場町らしい構えを今に残している。国道が全くこの旧道を利用することなく、海側にバイパスを建設する形としたことで、幸運にも完全に往時の街道が残される結果となった。
 家並はこの地方独特の妻入りの外観が良く保たれ、中心部ではその純度がやや低くなるものの、それ以外では混じり気のない家並が保たれている。間口の広い大柄な商家建築は少なく大半が小規模な建物であるため、かえって町並景観として連続性が強調される。古い海岸線に沿って街路が作られたらしく、緩いカーブを持って続く家並だ。そのような箇所では視界の先が全て家並で占められる箇所もあり、次に眼にする町並への期待感を抱かせる。一方で中央部の羽黒町付近ではほぼ一直線となり、 小さな妻入りの屋根が遠くまで見渡せる独特の町並景観であった。
 家々はそれほど古いものではない。冬季の季節風の厳しい土地のため全面が板で被われ、また造りも簡素であるためだろう。しかし二階屋の多い中で所々に平屋あり、また二階も全面板張りのもの、真壁となっているものなど、良く見ると少しずつ表情が違う。またごく一部に、街路に軒庇を張出させ、木製の支柱を設けた越後独特の雁木のある家屋も見られるが、そのような家は建屋自体が街路から少し控えて建てられており、他の町のように歩道として利用することはできない。
 傾向として羽黒町より東側では間口が一層小さい建物が連続する一方で、西側の尼瀬地区は比較的大柄な商家風の建物が目立つ。これはこの地区に金銀の積上げ港が設置されていた関係で、裕福なお宅が集積していたからかもしれない。ここには陣屋や代官所も設けられ、政治的にも重要な出雲崎の中心だったようだ。街路もやや他と比べ広い。
 平成8年には県がここを景観形成推進地区として指定し、新しい建物も妻入りの形を保つよう統一され、また舗装や街路灯等の整備も行っている。現在の所海側を走る国道に道の駅が設置され、多くの訪問客があるが出雲崎の古い町並の中まではそれらの客を含めて流入は少なく、ほとんど手の加わっていない妻入りの町並を落着いて散策することが出来る。
 このようなほぼ妻入りのみで構成された町並が大規模に残っている例は珍しく、重要伝統的建造物群保存地区にも匹敵するものがあると思う。今後の取組に期待したい所だ。
  
 





鳴滝町(町域東部)の町並 木折町(町域東部)の町並




羽黒町(町域中部)の町並 井鼻地区(町域東部)の町並



尼瀬地区(町域西部)の町並


所々にある路地 街道と海をつないでいたものなのだろう



訪問日:2007.05.04 TOP 町並INDEX