地御前の郷愁風景

広島県廿日市市<門前町・漁村> 地図 
 
町並度 4 非俗化度 7 −厳島神社の外宮を中心に栄えた町−



 地御前地区は現在の廿日市市街地の西部、対岸に宮島を望む海岸部にある。広島市内の通勤圏にあり住宅地が展開しているが、それら後発的な街区とは異なる古くからの町場地区は今も一部で古い町並を従えている。
 
 町の中心をなすのは地御前神社で、今では山陽本線と国道に遮られているがかつては直接海に面していた。この神社は厳島神社の外宮として重要な役割を担ってきており、厳島神社が島方にあるのに対して当地が地方にあることから地之御前と呼ばれたことに由来するという。
 江戸初期には既に神社近くの海浜に沿って町場が形成され、半農半漁の生活を送っていた。特に鰯や海老の漁が盛んで一部神社に上納していたという。
 厳島神社との関係は深く、その祭事にならって地御前神社でも多くの行事が行われた。特に旧暦5月5日に行われた流鏑馬、6月に行われた管絃祭の折には賑わい、他の時期でも常に参詣者が絶えなかった。そのため商いをする者も多く現れ、17世紀後半の天和期には材木や牛馬・干鰯などを扱う市も始まった。生活の基幹である漁業とともに町は繁栄した。



神社に向う街路に沿って町家が見られる






 現在、地御前神社より東側の街路に沿って平入りの町家建築が見られ、一部では連続性を保った箇所もある。袖壁や虫籠窓を残したものもあり古い町並としての体裁を保持している。その歴史を知らなければ伝統的な町家群の存在が滑稽に思えることだろう。
 近くには近代的に整備された地御前漁港がある。明治以降は神社の町から徐々に漁村の比率を高め、出稼ぎ漁業や牡蠣・海苔を中心とした養殖漁業が盛んに行われた。今残る町家も江戸時代にまで遡るのもはごく一部のようで、多くでは明治から大正にかけての二階の立ち上がりの高い建物であり、門前の賑わいを残しながらも漁業の町として賑っていた頃の姿なのだろう。



訪問日:2010.04.18 TOP 町並INDEX