文化財の建物

−工楽松右衛門旧宅

(兵庫県高砂市)

 
 

工楽松右衛門旧宅と横路地
 

 
 加古川下流右岸に位置する高砂の町。海岸部は工業地帯となっているが、その内側には古い港町に由来する入組んだ街区が展開している。船溜りだった堀川付近には伝統的な建物も見られ、歴史を感じさせてくれる。
 その中で代表的な建物が「工楽松右衛門旧宅」だろう。本瓦葺の堂々とした主屋は、町並の中でひときわ格式と威厳を感じさせる。
 2003年にこの高砂を訪ねた時も工楽家の建物を見たが、当時はかなり傷んだ様子で、ブルーシートで覆われた部分もあるなどこのままでは取り壊されてしまわないか心配に感じるほどだった。市は2016年に工楽家より寄付を受け、1年と4ヶ月をかけて破損の進んだ各部位を修理・復元し、今の姿となった。一般公開にこぎつけ、2019年に県指定史跡にも指定された。また日本遺産「北前船寄港地・船主集落」の一部となった。
 
  




古い町並の風情のある工楽家付近 路地に面しては船板塀が残っていた 


 加古川舟運と海運の結節点として発達した港町において、初代松右衛門は海運業に携わりながら船の帆の改良や港湾の改良に尽力、その功績を認められ工楽姓が与えられた。改修した港湾は箱館や択捉島など遠方の港も含まれた。二代目以降も新田開発を指揮するなど土木事業に手広くかかわり、その後砂糖などの問屋業も行った。
 特徴的な寄棟屋根を持つ主屋玄関をくぐると、広い立派な土間と裏手に続く廊下が見渡され、向かって右のもと店の間が事務所となっており、係の方にざっと説明を受けて一通り建物内を見て回った。最初外観を見た時にはこれだけ整備されるとは想像できないことで、しかも無料で見学できる。
 解体修理ではなく極力原形を留めるべく検討されたようで、建築当時そのままの建材も多い。電話室や「志ちや」と記された看板なども残され、商売をされていた様子がうかがえる。
 二階には、工楽家の功績が年表などで示されている。特徴的なのが裏手に位置する洋室で、近代に入ると文化人などとの交流も盛んだったということで、客人を迎え入れていた部屋なのかもしれない。
 工楽家と道を挟んだ東側はかつて堀川から水路が引き込まれており、船着場だったそうで、ここから諸物資の積み下ろしを行っていたに違いない。今は駐車場となっているこの一角は、整備にあたり護岸の石垣などが発掘された。また、主屋向って左の路地に面しては船板塀は2003年に訪ねたときの記憶そのままだったが、その間に周辺の家々が整備され、古い町並らしい風情が高まっていた。
 
 




できるだけ元の建材を生かした内部 



電話室 質屋の看板が残されていた



二階部分の工楽松右衛門の実績を説明したコーナー
 




これは商船の一覧か 「船號表」といった表記も 往時の家具などの展示 


特徴的な洋室 応接間に使われたものか




裏庭の風景 ユニークな形をした灯籠があった 


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