東谷の郷愁風景

石川県加賀市【山村集落】 地図(荒谷地区付近を示す)
 町並度 5 非俗化度 6 −赤瓦屋根の旧家が散在する山村集落群−

 




荒谷地区の町並
 

 ここで紹介する通称東谷地区は加賀市の中心から5〜10km南東、片山津温泉のある柴山潟、最終的には日本海に注ぐ動橋川の中上流域に散在する農山村を総称した地名である。
 江戸時代には加賀国江沼郡、大聖寺藩に属していた。藩は山間部に展開する8つの村に炭役を課し、藩で消費する炭を全て生産していた。
 明治になって炭役は解かれ、一般家庭でも炭の需要が増したことから自由商売で各家は炭を生産するようになり、この頃から戦後になって化石燃料が主役になるまでが集落としての隆盛期だった。豊かな木材を背景に裕福な家も多く、その姿が伝統的な形をよく保持しているとして、平成23年に重要伝統的建造物群保存地区に指定されている。
 その動きは、平成16年に「全国町並みゼミ」が大聖寺で開催された折に、この東谷地区の山村をテーマにした分科会が開催されたのが端緒といえる。その数年後には国の調査が入り、市独自の保存地区となるなど段階を経て、文化庁の保存地区選定に至っている。
 下流側から荒谷・今立・大土の3集落、峠を挟んだ杉水の4集落が保存地区となっており、特に荒谷・今立地区では伝統的な建物のある程度の連続性がある。その印象を強めているのは赤褐色の瓦だろう。赤瓦というと山陰地方が想起されるが、北陸一帯にも広く分布している。平入り妻入り混在の家々の壁面は梁組が表面に見える真壁で、それと赤瓦との組合わせにより独特な町並景観を織成している。多くの家屋では囲炉裏の煙抜きの越屋根を備えているのも、伝統的集落風景の印象度をより強いものにさせている。
 大土集落は動橋川をかなり遡った位置に意外な平地が開け、裕福そうな農地が開けていた。棚田なども見られる緩やかな耕地と共存する集落である。
 峠を越えた杉水集落は数軒の小さなものだが、伝統的家屋を利用した蕎麦屋が知られており、手打ち蕎麦をはじめ素朴な手作り料理を味わうことができる。
 古くは焼畑で生計を立てていたといわれ、北陸の農山村集落の原型が保たれた集落といってよいだろう。
 




今立地区の町並




大土地区の町並



杉水地区の町並(旧家を利用した蕎麦屋)

訪問日:2015.06.13 TOP 町並INDEX