上市の郷愁風景

奈良県吉野町【商業町】 地図
 
町並度 6 非俗化度 7  −奥吉野地方の玄関−






吉野町上市の町並


 吉野山に向う近鉄電車はこの上市付近で吉野川を渡り、吉野山の麓の終点に達している。吉野は近年では桜の名所として春は観光客で賑うが、その他の時期は山間の静かな町である。
 吉野山の桜は歴史深く、万葉集にもうたわれているし豊臣秀吉も盛大な桜見をここで行い、次第に桜の名所となった。この地域では、大峰山(山上ヶ岳)の修験者が桜を神木と崇めて枯葉や枯枝を薪に使うことも控えたということで、桜が大事にされ続けた経緯がある。
 一方で吉野川の北岸にあたる上市地区はかつて奥吉野の玄関口として賑やかな町が展開していたという。平地はほとんどなく、東西に細長く町が連なる。古くは吉野川の中洲に町が開けていたというが、水流の変化などでその位置がかわり、住民は漸次北岸の段丘下に移住していったのだという。現在は中洲はない。
 訪ねた時、盛夏のこともあり河原は水浴やバーべキューをする若者や家族連れなどでごった返していた反面、古い上市の町は日干しされたような家並が続き、行交う人々は少なかった。
 川に平行する国道の一本山手には、昔ながらの街道がそのまま残り現在でも町役場があるなど吉野町の中心をなしている。切妻平入りの町家建築が高い割合で残る狭い街道筋はかつて人や物資の往来が頻りだったに違いない。土蔵を従えた大柄な見応えのする造り酒屋、二階の立上がりの高い黒漆喰の町家などからは商業街として吉野地方の中心であったらしい歴史が如実に感じられる。
 吉野地方は多雨地域であることから木材、特に杉材に恵まれ、山地から開放されるこの上市では吉野川を使い下流に木材を運搬する筏師がかつては多数居り、また吉野山を訪ねる客のみならず大峰山を参る人々でも賑った。明治以降もますます繁栄が続き、吉野川沿いに商家が建ち並んだ。
 旧道沿いに連なる家々は、川側では岸に直接降りられるようなスロープ状の空間が随所にあり、川とともにある集落であったことを示していた。昭和42年に新しい国道が川沿いにバイパス的に設けられると、町は吉野川とは縁切りされてしまった。
 国道を通過するドライバーからは全く気付かれることも無い静かな町並であった。










訪問日:2008.07.20 TOP 町並INDEX