上町の郷愁風景

長野県上村【宿場町】 地図 町並度 5 非俗化度 7 
遠山郷の北端 秋葉街道の宿駅


 上村一帯は伊那地方に属するが、天竜川本流の上流一帯に開ける伊那谷ではなく、赤石山脈の前衛として連なる伊那山地との細長い谷間に展開している。この谷筋は日本海側の糸魚川から本州を東西に分ける大地溝帯の一部を占めており、地勢的にも特徴的な一帯である。


 この狭い谷間は遠山郷と呼ばれ、近年になって整備されてきた三遠南信自動車道により飯田市付近から容易にアクセスできるようになったが、長らくの間交通の不便な土地であった。
 徳川家康の江戸開府以降、しばらくの間この谷は他国の者が足を踏み入れることも禁じられ、隔絶状態であった。それは江戸の町を建造するために必要な厖大な木材を、この遠山の谷に求め独占しようとしたからであった。しかしそれにも限界があり、秋葉神社への信仰が高まったこともあって、やがて急峻で水害も多い天竜川沿いの不安定な道を避け、伊那山地を横断してこの谷を下り、遠江に達する秋葉街道が本格的に運用されはじめた。伊那街道の八幡追分より分岐したこの街道は、天竜川を横断した後難所小川路峠を越え、谷間に下りた最初の集落・上町に宿駅を構えた。
 旧上町宿のたたずまいは国道が遠山川の対岸にバイパスとして建設されたためそのまま遺構を残し、切妻平入りの建物が軒を接した形が踏襲されている。一見して街道集落であるとわかる佇まいだ。二階部分に欄干を持つ旅籠・宿屋風の造りが目立ち、格子が細やかに組まれた木質感の高い外観はさすが家康も着目した木材の産地であったと思わせる。そして宿泊業を営んでいた旧家にはかつての屋号が記され、中には現在でも旅館の看板を掲げ、客を受け入れているものもあるようであった。
 町の規模は小さいが、周囲の山々はきわめて深く、車社会の現在でも辿り着いてみると家並の連なりにほっとさせられるような所である。
 






 






公開される旧家もあった

訪問日:2011.07.17 TOP 町並INDEX