上三坂・上市萱の郷愁風景

福島県いわき市【宿場町】 地図(上三坂) 地図(上市萱)
 町並度 5 非俗化度 9  −仙道五駅に数えられた山間の宿駅−
 





 
 



 
上三坂の町並 


 福島県浜通り南部を占めるいわき市は面積1200km2を超える非常に広い自治体で、昭和41年に5市9町村が合併して誕生している。太平洋の沿岸部には商港や漁港として栄えた町々、温泉町などを有するが、その他の地域は阿武隈高地が卓越して山村地帯となっている。ここで紹介する上三坂・上市萱地区は市域の北西部、旧三和村にあたり、沿岸部の市街の一つ小名浜あたりを起点に考えると位置的に郡山市の市街地とのほぼ中間に位置する。それだけ市の面積が大きいということがわかる。
 両集落とも三坂街道と呼ばれた旧道に面し、長沢峠を挟んで北に上三坂、南に上市萱が位置し、小規模ながら宿駅が置かれ、文政11(1828)年の『陸奥国磐城名所略記』では「仙道五駅」の一つに数えられていた。この街道は浜通りの平から阿武隈高地を横断し小野新町に達していたもので、中通りと浜通りを結ぶ主要道であった。
 上三坂は『磐城誌』に「三坂ヨリ田村郡田野子境石仏ニ至ル六里、三春城ニ通ズ」「三坂ヨリ小平境ニ至ル六里、此ヨリ六十里を経テ白河城ニ通ズ」とあり、街道上の要衝であった。少なくとも中世15世紀には集落が立地していたといわれ、当時は三坂氏が付近に城を築き西の田村氏と対峙しており、上三坂はその城下町でもあった。
 訪ねると、奥行きの深い宅地が櫛型に並んだ典型的な街道集落の形が残っていた。大柄な屋根はトタンに覆われているものも多く、それらは元茅葺であったと考えられる。多くは入母屋形式の格式高いもので、妻部を街道側に向けながら平入りの形をとっている。その点はやや農村集落的ともいえる。
 旧街道に沿い細道を南下すると、峠越えの後やや谷が開け上市萱地区に達する。現在は西側を走る県道が整備され、谷蔭に隠れたような格好となっている。ここも街道集落と判る佇まいが残っていた。こちらは瓦屋根主体であるが奥行が深い点は同じで、裏手に向けて複数の別棟や土蔵が並ぶ姿もあった。峠下にあたるこの集落では峠越えをする客、峠を降りて一息つく客でにぎわったという。
 長沢峠付近には塩見山という名の山がある。この街道の最大の荷は内陸地方にとって貴重である塩で、浜から運ばれてくる塩が上市萱を出て上三坂に向うと、塩見山に詰めていた見張りが「塩が来る」と後方に伝え、上三坂宿に伝令が走り塩の到着を待ったという。
 
 



 
 


 
上市萱の町並 
   
訪問日:2023.04.01 TOP 町並INDEX