唐津の郷愁風景

佐賀県唐津市【城下町】 地図(大石町付近を示す)
 
町並度 6 非俗化度 5 −湾と河口が自然の濠を成した唐津城の城下町−





 唐津市は市街地の東から海岸に美しい虹ノ松原が伸び、松浦川の河口を挟んでは唐津城が対峙している。唐津城は名護屋城主寺沢広高が文禄・慶長の役を機にここに移り、本拠地とするようになったことを契機に建設された。

水主町の町並





大石町の町並




新町の町並 刀町の町並
 

 城を築くにこれ以上適した所はないといえる地形である。北には玄界灘が見渡され、南は松浦川の河口部が自然の掘割をなした。また南部と西部には濠がうがたれ、その内側を城内と呼んだ。一部は市役所付近にその名残が見られる。ここに多くの武家屋敷を配し、その外側に内町11町と外町5町を整え、城下町が建設された。町の入口には計画的に寺が配され、当時としては画期的な近代都市に成長した。
 唐津の町は川によって幾つかの地区にわけられ、それぞれ特徴ある町並風景を眼にすることができる。「内町」や「外町」に所属していた町々には、現在でも所々に伝統的な建物が残っていて、古い町並らしい風情を創出している。その中心となるのが大石町付近で、漆喰に塗り込まれた町家の密度が濃い。平入りで中二階となっているところが一般的な九州北部の町家とはやや異なるが、二階部分は虫籠窓でなく矩形または多角形の窓となり、窓が一枚だけのものも目立つ。一部では梁組を表に出した真壁となっていて、北陸地方をも想起するところがあった。そして、それらの多くは商家であったらしく1階部分が大きく開放する構造となっており、現在でも造り酒屋を営んで入口に杉玉が提っていたり、醤油の看板が掲げられていたりする。
 町田川を渡った西側の地区は駅や市役所にも近く繁華街となっており、古い町並としては失われている。しかし注意してみると、飲食店の合間に所々に伝統的な建物が残っており、またそれを改装して営業されている姿も見える。さらにこの付近では昔の町並を取戻そうと、店舗群がレトロ調の外観にあしらわれ、創られた古い町並が現れようとしていた。その試みは評価したいと思う一方で、余り度が過ぎないように願いたいものだ。素材が古いため全くの現代の人工物ではないし、大分県豊後高田市のような成功例に続けられれば、それはそれで良いこととは思う。
 市役所より北、城内地区は一転して落着いた雰囲気が漂い、敷地に余裕が感じられ現在でも邸宅地であり、唐津くんちで知られる曳山を納める唐津神社など、現在に至っても旧町人地とは全く様相が異なる地区である。これはこの街が戦災に遭わなかったことが大きいだろう。
 松浦川河口にかかる橋を渡り東唐津地区に移ると、砂洲の上に開けた家並が連なっている。多くは庶民の家であろうが、一段高い所には老舗旅館が連なっていた。虹ノ松原に近く、眼前には唐津城を望む地で、その風光明媚さから旅館が古くから立地していたのだろう。
 単に古い町並として「町家度」だけを取るとそれほどのものではないかもしれないが、城下町としての「結構」が現在でも程度よく残される貴重な町として、その点が高く評価できる。






東唐津町の旅館洋々閣 東唐津より唐津城を望む

訪問日:2008.08.15 TOP 町並INDEX