笠岡の郷愁風景

岡山県笠岡市<港町･商業町>　地図 　町並度　5　非俗化度　8 　−備中西端の港町　路地風景と商店街の二つの表情−
笠岡の町並（市街地西側）
備中南西端を占める笠岡周辺はかつて綿花の栽培が盛んな地域であり、明治時代、鉄道の開通に伴い紡績工場が立地、この町家はその時代に立てられたものである。当時は県内有数の工業都市としての位置付けがあったという。
天文年間には水軍であった村上氏が当地一帯を所有していたとされる。毛利氏の支配下にあった当氏は、現在の笠岡駅の東側に位置する古城山に築城し、毛利氏の備中進出の前衛基地となった。 城山の下に広がる入江は港としても最適で、軍港として整備を始めたが、慶長5年関ヶ原の役に大敗し城も廃棄された。江戸期は主に幕府領とし経過している。 　江戸時代後期になるとようやく港も発展した。幕府代官が当地の産業を奨励したこともあり、小田郡や後月郡域の産物の積出し港となった。石見大森銀山の銀も一部ここから積出されたといわれる。港に沿い商家が建ちならび、その一部の名残がJR線に沿って残る一角なのだろう。現在の笠岡駅の附近は当時入江の奥になっていて、浜会所や波止場があったとされている。 　幕末になると玉島港（現倉敷市玉島）と競合することが多く、次第に商港としての役割を薄れさせていった。 　駅前から市役所方面に向う街路は近代的に整備されており、古い港町・商業町としての表情はない。一方その周囲には歴史を感じさせる佇まいが残っている。県道より西側では細い路地が支配し、小規模な商店や住宅が連なり、商家風の建物も見られる。小さな川に沿い円弧状に家々が並ぶ風景、路地裏に祠のある風景など、やや雑然とした趣ながらも風情のある町並が展開している。 　また駅の北東側、線路沿いになまこ壁の土蔵が幾つか見られる。列車の車窓から間近に見られるので、印象に残る風景である。これらは商家の裏手にあたり、表は商店街に面する町家風の建築に連なっている。何本か路地がその間を貫くが、そこを歩くと敷地の驚くほどの奥行深さを感じる。俗に言う鰻の寝床である。以前はアーケードに覆われた部分があったが現在はすべて外され、建物の様子もよくわかる。但し、線路を挟んで南側には大きな商業施設もあり、商店街としては機能していないようであった。この地区の古い建物群は、いずれ失われてしまう可能性があると感じた。
駅東側の線路沿いに残る土蔵群
土蔵群を北へ抜けると商店街が展開している