大当の郷愁風景

鹿児島県笠沙町 【漁村・農村集落】 地図 〈南さつま市〉
町並度 5 非俗化度 7 −東シナ海に張出した半島の石垣集落−



 薩摩半島の南西部、東シナ海に突き出した野間半島という半島の先端に近いあたりにあるこの大当集落。外洋に面した厳しい環境を示すように独特の景観が展開していた。
大当集落全景










 

 近郷に片浦という港町があり、加世田の外港、そして貿易の場としても賑わい栄えていた。現在も町の中心となっているこの港は北に細長く張り出した小半島との間の深い入江となっており、港を築くにこの上ない地形であることがわかる。当時の書き物に、「凡そ港中の入り半里、港口の横幅六町許り、深さ十八尋ありて、大船数百艘繋を得べく、実に本藩の良港なり(後略)」と記されている。
 大当地区はそこからひとつ隔てた小さな湾に面している。少なからず片浦港の恩恵は受けているはずであるが、その外観は斜面に開けた半農半漁の集落といった風情である。そして集落内に入ると石垣によって区画整理された家並が出現する。半島を周回する道路やその周辺は僅かな平坦地が広がるが、集落が発達した頃には海だったと思われ、家並は全て傾斜地に立地している。或るところでは緑草に覆われ、また他の箇所では石の確保に苦労したのか、大小まちまちの石が積み重ねられ石垣をなしている。それらは全て一つずつ人力で積上げられたものに違いなく、その百万個ともいわれる石にもそれぞれ表情があるようでもある。
 漁業を主に生計を立てていたといわれるが、酒楽全体のイメージとしては漁村らしい匂いはなく、どちらかというと農村集落の彩の濃い佇まいであった。それは石垣に囲まれた畑地を多く目にしたことによるのだろうが、それらは小規模で生業として成立つには余りに小規模である。やはり海の恵みを得て集落が息づいていたのだろう。
 集落の入口では現在、石垣群の里という名目で案内看板が立てられ、訪れる人を迎え入れている。このような辺境の地のこと観光客が多く訪れることはないと思うが、逆にそうであってほしいような素朴で静かな集落であった。
 
 
 
訪問日:2014.01.04 TOP 町並INDEX