柏木の郷愁風景

奈良県川上村【門前の旅館街・山村集落】 地図
 
町並度 5 非俗化度 7  −修行の山への登山基地として発達した−





柏木の町並(旅館朝日館付近)

 

 奥吉野地域の幹線道は、西側の十津川村方面を縦断するものと、東側の吉野川を遡って川上村、上北山村などを経由し熊野方面に抜けるルートがあり、柏木は後者に位置する。西は修験の山で知られる大峰山、東は大台ケ原などの山地に挟まれた非常に山深いところである。 柏木地区はかつて大峰山の代表的な登山口として賑わった。修験者はここに泊り翌朝出発するのが通例で、登山道はよく整備され一定の間隔に町石が設置され、登山者の励みともなっていた。このルートは柏木道と呼ばれ、下山には柏木とは反対側の洞川方面に下山するのが一般的とされた。
 国道169号を走っていると谷間の崖上のような所に旧道が残され、そこに柏木地区の集落があるのだが国道からは見え辛くともすると通り過ぎてしまう。旧道はようやくすれ違えるほどの道幅で、吉野川のダム建設に伴う大型車の通行のため、谷側にバイパスを建設したのだという。集落の北端付近に「大峰山登山口」という看板があり、いきなり急坂が始まっている。これだけでも登山基地であることがわかるが、同じく登山口である山向うの洞川地区が温泉も発見されて賑わいを呈しているのに対し、山へのアクセスも長いこともあって旅館街としては寂れてしまった。
 歩くともと旅館と思われる立派な構えの木造建築もあったが、無住になって久しいらしく前面にカラーコーンが置かれていた。しかし商店の看板やその名残が見られる建物も多く、意外な町並の展開があった。修験者の宿泊で賑わったというだけではなく、近隣を含めた一つの商圏を形成しているような佇まいである。ただし、営業している店舗はごくわずかなようであった。
 集落の南側に旅館「朝日館」が営業を続けられており、精彩のない町並の中で異色を放っている。むろんこの旅館も修験者の宿として創業し、140年になるという。ここに1泊し色々お話を聞くことが出来た。昔は他にも旅館が数多く、旅館街という風情だったとのこと。修験者の宿としての名残は、数年に一度顧客が登山会の催しを開き、数十名の泊り客がある時のみとのこと。町並の中心にある厳かな建物はやはりもと旅館だったこと、人の住まわれている御宅は数軒のみであること。いずれも寂しい話ばかりであった。立派な郵便局の建物が、賑わっていた頃の名残を留める唯一のもののようであった。
 
 






元旅館の建物

訪問日:2024.09.14・15 TOP 町並INDEX