紀三井寺の郷愁風景

和歌山市紀三井寺【門前町】 地図 
 
町並度 4 非俗化度 5  −塩と寺への客で賑った町−

紀三井寺の町並


 和歌山市街地の南外れにある紀三井寺は名草山の西麓に聳え、急な階段を登ると本堂付近から和歌浦を見渡すことができる。8世紀には開基していたという大変古い寺院で、その名は三つの井戸があることに由来するごとく、今でも境内に残るそれらの水源は名水百選に選ばれている。
 現在、名草山の麓は住宅地や商業地が広がっているが、古くは遠浅の干潟であったのだろうか、この付近では塩業が盛んに行われていた。塩田が広がり付近の三葛村などで産出された塩は紀三井寺村に納められた。紀三井寺村は和歌山藩の御蔵所でもあった。
 江戸末期の慶応期には200軒を超える家屋があり、当時の記述に『塩浜稼両毛肥シ拵候、田畑所持不仕者は、小商ひ茶屋旅籠屋其外日雇稼キ』とある。塩業が主産業であるとともに、参詣客相手の商売が盛んに行われていたことがわかる。
 境内の入口に当たる「結縁坂」と呼ばれる石段の上り口には小規模ながら土産物街があり、門前町的な風情が感じられる。ただし門の正面に当るこの通りには伝統的な佇まいは見られない。階段の上り口から南北に伸びる細い街路に沿って古い町並が展開している。
 一部には入母屋の豪華な屋根を持つものも見られるこれらの町家群は、門前の賑わいというよりは製塩業で栄えた商家だったのかもしれない。外見からしても旧旅籠屋とは思いにくい。街路からは名草山に向けて櫛の歯状の路地が見られ、奥まった位置には旅館建築のような木造多層階建も見られた。これらが宿泊施設として機能していたものなのかもしれない。 古い町並としてはもう少し町家の連なりがほしい所であるが、参詣道から外れたところにあるこの町家群を見るだけでいろいろな想像が浮んでくる。
 紀三井寺は桜の名所としてもよく知られ、私が訪ねた時は五分咲きから見頃に向う頃合で、寺は多くの観光客、そして西国三三箇所巡礼の白装束の一団などで賑わいを見せていた。
 

 
 

路地奥には旅館を思わせる木造建築が見える


訪問日:2009.03.29 TOP 町並INDEX