木之本の郷愁風景

滋賀県木之本町<門前町・宿場町> 地図
 
町並度 7 非俗化度 6 −信仰に支えられた北国街道沿いの町−




 木之本町は滋賀県の北部、西を琵琶湖に接し東部は美濃国境の山地が連なっている。冬は日本海型気候の影響が強く積雪も見られる。秀吉と柴田勝家との激戦地となった賤ヶ岳、数多くの観音など深い歴史が刻まれた町でもある。
袖壁を従えた町家が連なる木之本の町並











 中でもこの町で最も有名なのは木之本地蔵の名で親しまれている浄信寺であろう。歴史は7世紀にまで遡るという古い寺院で、眼の神様として全国から参詣客を集め、町場が発展していた。現在でも8月末の縁日の際は大変な賑わいを見せる。
 また湖北は観音信仰の強い地域であり、15体の観音様は地元の住民が今でも交代で守っている。
 そのように宗教色の強いこの町であるが、町が古くから発展していた理由として北国街道が浄信寺門前を通っていたことも挙げられる。江戸時代の初期には既に大名等の宿泊所として本陣や脇本陣が設置され、また北国脇往還を分つ地点でもあったため宿駅としての重要性は高かった。人の集結する要の位置にあり、北陸や近隣の物資の通過、集結点となって問屋や商家が数多く立地していた。
 現在のこの町は幹線国道や北陸本線が北国街道の西にずれて建設され、古い町は大きく破壊されることもなかったため、旧街道沿いには重要伝統的建造物群保存地区にも匹敵する町並が残っていた。町家は軒並袖壁が付けられ、それが街道上に1列に並んでいるさまはリズミカルな小気味よさを感じさせる。特に浄信寺より北側、街路が緩やかにカーブするあたりは伝統的な建物が連続していて古い町並と呼ぶにふさわしい佇まいを残していた。
 店舗として改装された家屋も多く、一階はショーウィンドー調となり2階には看板がかかったものも見られる。しかしそれが逆に着飾らない町の風情を漂わせているようで好感が持てる。
 大きな杉玉を下げた入母屋の旧家は造り酒屋の山路酒造。浄信寺を挟んで街道の南側にはこちらも
古くからの酒舗、冨田酒造である。創業の古さでは全国でそれぞれ第5位、6位を占める造り酒屋である。その斜め前には古びた木製看板を多数吊した薬局もある。この薬局の位置に本陣があった。
 さらに南に歩を進めると北国街道は枡形に突当たる。北国脇往還との追分で、「左江戸なごや道、右京いせ道」という道標が残る。北国脇往還は中山道の関ヶ原宿までを結び、北国から東海道を江戸方面に向う旅人は北国街道起点の鳥居本宿を経由するより近道であった。その脇往還に入った辺りにも、袖壁を配した町家が数軒残っていた。
 帰途に「冨田酒造」で奥さんと少し話をした。私がいい町並が残っているというと随分謙遜されて昔に比べると建替えられてほとんど風情がなくなったという意味のことを言われた。一般に住んでいる方々には貴重な町並であるという認識は薄い。実際この町では古い町並に対する保存活動は全くなされていないようである。外来客を意識した観光施設などは全く必要ないが、この町並がいつまで保たれるのか気がかりである。




         
訪問日:2005.04.17 TOP 町並INDEX