北木島の郷愁風景

岡山県笠岡市<産業町> 地図
 
町並度 5 非俗化度 10 −瀬戸内の石の島−





北木島大浦集落の町並 北木島大浦集落の町並




北木島大浦集落の町並 北木島大浦集落の町並




木造三階建の旅館
 

 笠岡市の南の瀬戸内海に浮ぶ笠岡諸島。北木島はその内最大の面積があり、笠岡港から客船・フェリーが頻繁に運航されている。
 この島は「石の島」として知られる。明治時代から昭和初期にかけて、北木島は石材生産で大いに経済が発展していて、活気に満ちていた。その一例が大正13年に創立された北木電気株式会社で、当時としては珍しく民間の電力会社から各家庭に送電を開始している。
 瀬戸内沿岸地帯は硬い割に加工しやすい花崗岩地帯で、島の山を仰ぐと山肌に岩が露頭している姿をよく眼にする。風化されにくい性質も持つため、建築にも多く使われている。天保14(1843)年にこの島に生れた畑中平之はこの花崗岩に着目して、採掘・販売することを思いつき、私財を投じて販路拡大に努めたのだった。維新後都市部で一種の流行ともなった洋風の石造建築など数多くの建築物はここの石材が用いられている。
 現代では輸入石材が北木石を上回るようになり、原石の採掘はほとんど行うことなく輸入された石を加工して出荷することが一般的となったが、それでも戦後しばらくまでは「石工補導所」といって、中学卒業程度の少年を受入れて石材採掘について1年ほど実技指導や学科などを学習する制度もあった。
 この島には金風呂、豊浦、楠、大浦など幾つかの集落があり、私が訪ねたのは大浦だけであったが、かつて産業の島として栄えたであろう殷賑の残像が感じられた。それは集落に多く見られる旅館である。その数は集落の規模からして明らかに多い。しかも一部の旅館は堂々とした木造三階建の威容を誇り、現在でも営業中であった。他にも広大な敷地を持つ屋敷型の旧家も幾棟か見受けられた。石材加工業で栄えた当時の賑わいは町並から嗅ぎ取ることはできないが、建物の一部からは感じることはできた。


 ※「北木石」が供給された建築物
 第一銀行本店・日本銀行本店・大阪市役所・日本銀行大阪支店・奈良天理教本部・日本生命本社・三越本店・靖国神社大鳥居・比叡山延暦寺大鳥居・南海電鉄難波駅・京都五条大橋(他多数)
 

 

訪問日:2005.02.20 TOP 町並INDEX