黄波戸の郷愁風景

山口県長門市<漁村> 地図
 町並度 5 非俗化度 7 −仙崎・青海島に湾を挟み対峙する漁村集落−
 





 




黄波戸の町並 路地が支配するその佇まいは漁村集落そのものだ
 

 長門市の市街地より日本海にせり出した仙崎の砂洲と海岸の風景が素晴しい青海島。東にそれらを控えた湾の西岸に黄波戸地区はある。温泉が湧き一般にはその印象が強いところだろうが、温泉場として開かれたのは戦後となってからでありその歴史は浅い。事実集落内を歩くと温泉地らしい色は微塵も感じることは出来ず、細い路地が巡る漁村そのものの風景であった。漁村としては深い歴史を持っている。
 萩藩領に属していた黄波戸浦では鰯や鯖などの近海漁業に加え、ワカメなどの採取漁業も盛んで近隣各地に商っていた他城下にも献上していたのだろう。また明治に入ると捕鯨業にも力をいれ、隣村の津黄村、立石村などと協同し出漁した。この連合捕鯨はかなりの成果を得、年間23頭捕獲した記録も残っている。乱獲が災いして明治後期には廃れてしまったが、その頃が黄波戸にとって最も賑わいを呈していた時期であったろう。
 海岸沿いには新しい道路が出来、近代的な漁港が設けられているが、一本山手にはかつての集落道らしい曲がりくねった細道が集落を貫いている。そこから更に細い小路が坂道となり、または階段をなして各漁家に達し、またそれらをつないでいる。中心部には醤油醸造家のほか、商家風の平入り町家なども幾つか見られる。それは鯨漁を基盤とした裕福な時代があったからだろうか。
 古い町並としても予想外のものが残されている。温泉地というこの町に対する一般の知識を全く覆す漁村集落の風景であった。
 
 


訪問日:2009.06.28 TOP 町並INDEX