榎井の郷愁風景

香川県琴平町【門前町】 地図 
 町並度 5 非俗化度 6  −金刀比羅宮参道に直結する街道沿いの町並−










 

 金刀比羅宮(金毘羅さん)は現在も全国的にも著名な神社であり、参拝する客も絶えないが、かつては現在の比ではないほど参拝熱が高く、四国と瀬戸内地域にあっては、中央に向う交通路の他は琴平を中心に街道及び航路が巡っていたといっても、強ち過言ではない状況だった。江戸期頃の文献からは、琴平と宮島、そして吉備津(宮内)が参拝の旅の典型で、かつ豪遊ルートであったことがわかる。
 四国各地の陸路、そして多度津などに発着する船での参拝者が全て結集したこの町かつての賑わいは、誠に想像を絶するものであっただろう。伊勢参りと並んで金刀比羅宮に参ることは人生の一大イベントとも言うべきもので、江戸期に入ると江戸や大阪からの参詣者も増え、その賑わいに乗って慶長年間には他国から門前に移住する者もおり、歌舞伎の興行など求心力もたかまった。
 当然のことながら遊女も存在した。町は早期から遊女禁止の触を出していたにも関わらず、大型の宿屋も多く存在したことから後には半ば公然となり、酌取女を置く宿を茶屋、置かない宿を旅籠として区別していた。
 ここで紹介する榎井地区は、参拝客が目立つ参道沿いとは川を挟んだ反対側の地区である。県道の1本北側に高松方面からの街道が残る。西に辿ると参拝路に直結していることから、かつてはこの道を徒歩で向かうというのが主流だったのだろう。現在はここに足を向ける参拝客・観光客はほとんど居ないが、江戸中期の宝暦期・天明期には芝居の興行が行われたとされるほど賑わっていた。また金刀比羅宮の例大祭の頭人を勤める家があり、また社領の重要な水源が村内にあるなど、金毘羅と榎井村は密接な関連を持っていた。また現在も地内の最も参道寄りにある興泉寺は、かつて寺域が社領内にあり神事に関係のある家柄であったという。
 JRの線路を挟んで西側はアーケード付商店街、さらに川を渡ると本格的な門前街がスタートする一方、東側は静かな街道集落的な町並となる。虫籠窓を持つ中二階の町家が眼につき、古い町並としての風情を感じさせる。玄関先に酒樽を積上げた格式ある構えの建物は丸尾醸造所。この付近が最も賑やかだっただろう一角で、見ていると呉服店、洋品店などと記された看板などが見え、かつてはほとんど商店だったと思われる。現在は1階のシャッターが閉っている姿が目立つ。気分が高揚した参拝者の往来が絶えなかった当時からすると、現在の状況はとても想像できなかったものであろう。


訪問日:2017.08.13 TOP 町並INDEX

※文章の一部は「琴平の郷愁風景」と共通