片貝の郷愁風景

千葉県九十九里町【漁村】 地図
 町並度 4 非俗化度 7 −イワシ漁での賑わいが基盤の街村−
 





海岸に平行する街路に沿って展開する片貝の町並


 九十九里町は名の通り九十九里浜のほぼ中央、町域はほぼ低平な砂丘地帯で占められている。
 中心をなす片貝地区は、海岸線に平行するバス通りと、町役場前を通るそれに直交する街路を中心に住宅地が展開している。前者が古くからの通りで、地区を南側に出外れるとこの地域独特の納屋集落が点在している。
 中世末期に紀州から伝わったイワシ漁は徐々に主要産業として根付き、元禄の頃には地引網が行われたという記録がある。食用ではなく干鰯と呼ばれる肥料に加工されるものであった。 
 江戸の干鰯問屋の資本が投下され、また周辺農村から網元に転じる者も多く、街道沿いに裕福な漁家が建ちならんでいたという。漁場である浜辺との間の砂丘部は塩場頭と呼ばれ、干鰯の加工場、漁網の干場として利用された。
 明治期に入るとイワシ漁は一時衰退するが、その後揚繰網漁という新漁法が取り入れられ、漁の規模も大きくなり再び他地域から多くの漁業従事者が移り住んだ。大正末期には東金から鉄道が延び物資や人の大量輸送が可能になったほか、潮湯治と呼ばれる海水浴が盛んになって東京方面からの客が多く訪れた。
 バス通りを歩くと、渋い瓦屋根を持つ邸宅や洋館の姿が見られ、街村的な町並の展開があった。一部には立派な中庭を持ち敷地の広いものもあり、これらはイワシ漁を基盤とし、それ以後の町場の発展に伴い建てられたものなのだろう。古い町並としての連続性は高いものとはいえないが、発展の歴史を物語るには十分なものがある。




 なお、この街道周辺から内陸方面に少し入ると、生垣に囲まれた独特の邸宅群が目立つ。先に記した町役場前を経由する車道の両側にも見られるが、そこから派生する路地にも多く見られ、個人の邸宅や農地とを区切っている。房総半島では上総や安房の海岸部を中心に、生垣が発達している風景がしばしば見られる。防風林としてこの地区の風物詩といえよう。

 

 
 
 
 
訪問日:2016.04.30 TOP 町並INDEX