鞍馬の郷愁風景

京都市左京区【門前町】 地図 
 
町並度 6 非俗化度 3  −鞍馬寺の門前街−

門前の町並
 

 洛北の谷間に位置する鞍馬の地。市街地からは叡山電車で山裾を縫いながら30分弱で辿り着くことができるが、ここの環境だけを眼にすると、全く深山の只中に居るような気分になる。
 鞍馬寺は平安の遷都の頃開かれたという歴史の古い寺院で、都の北方守護の役割を持っていた。中世には俗世間を逃れて隠居する人々が多く住まうところとなっていた。付近に源義経にまつわる史蹟や遺構が多く見られるのもそのことと無関係でないようだ。また中世末期には人々の信仰心も高まったこともあり参拝する客も増えた。谷沿いの街路は門前町としての賑わいが増した。
 一般に鞍馬街道と呼ばれていたのは鴨川と高野川の合流するあたりからこの鞍馬寺までの短い街路を指すが、道はさらに山奥の村々そして丹波の山村、そして若桜へも通じていた。若狭湾の魚介類を京に運び込む、通称鯖街道の一翼でもあったし、市街の多大な需要に応えて山村からの農産物などの移送も頻繁だった。門前街はそれらによる往来で活気に満ち溢れていたのだろう。産物としては現在も店で売られている木芽漬や薪炭があったが、殊に炭は鞍馬炭として珍重され、市中に供給された。明治に入り鞍馬街道が改修され、馬車や人力車が通れるようになり輸送力が稼げるようになった頃が、生産の頂点であった。
 現在でも参拝客が多く訪れるという鞍馬寺とその門前であるが、訪ねたのは冬の午後遅く、人影は疎らでやや陰気な空気が門前街には漂っていた。寺の入口に接してはやや大柄な老舗の土産物店が並んでいるものの、その他は平入りの町家建築が中心である。さすがに市街地のように間口が狭い家屋が密集しているというほどではないものの、外観はその姿に良く似ているようだ。但し家並の背後は山々に囲まれ、漂う空気にも山の嵐気のようなものが感じられる。
 出町柳から電車で往復し半日足らずで、寺とそれに従える落着いた門前街、そして山深い仙境の雰囲気を味わうことが出来る。
 






 




訪問日:2009.02.01 TOP 町並INDEX