黒石の郷愁風景

青森県黒石市【城下町・商業町】 地図
町並度 7  非俗化度 5  −雪国独特の工夫が感じられる町並−





中町の町並

 黒石市は津軽平野南東部を占める小都市である。周囲は穀倉地帯であり、また特産の林檎などの果樹園も多い。市域の東は黒石温泉郷を経て十和田方面への入口ともなっているが、全体的には地味な印象である。
 ここで紹介するのは市街中心、こみせと呼ばれる独特の構えが連続する町並である。他の地方で雁木と呼ばれるものと同様で、軒先に木製のアーケード状のものを張出させ冬季の歩行者の利便を図るものである。中町通りを中心にその質・密度ともに高い状態で残っており、近年重要伝統的建造物群保存地区にも指定された。 
 これだけの特徴ある町並が残った背景は、市街地の抜本的な開発が行われなかったこともあるだろうし、もちろん地元の方が大切に守ってこられたこともあろう。そしてその根底として多数建てられた頑丈な造りの商家建築は、在郷町としての繁栄振りを象徴するものである。
 町の基盤は中世の城下町で、江戸時代に入ると城は弘前に移ったが引続き陣屋が置かれ、近隣の政治的中心となった。初期の統治者であった黒石津軽家は街づくりのために各地の商人、特に近江商人を呼寄せ住まわせた。1年間は税を免ずるなどの特典を与えたこともあって徐々に定着していったが、周辺の農村地帯の豊かな収穫、また弘前から青森へ向う街道もここを経由し人々の往来も多かったこともあり、ひとたび町場化されると賑わいは拡大し、商人・町人が集積していった。江戸後期には1万石ながら城下町となり、黒石藩が発足している。
 かつては城下町のほぼ全域、市街中心の広範囲にこみせを持つ家々があったというが、現在ではほぼ中町界隈に限られている。個の建物レベルのみでの保存では歩道としての連続性も保たれないわけであるが、この中町界隈ではそれが十分機能しているところに高い価値が見出される。二軒、三軒と連なる旧家の軒下には木の温もりを感じさせる郷愁の歩道が現役だ。中には街路に面してガラスをはめ込んだ木製の引戸が設置されているものもある。夏場は外してあるそうだが、私が訪ねた時は積雪の時期、こみせがまさにその真価を発揮している姿を目にすることが出来た。旧家の主なものは高橋家(国重文)など江戸期にまで遡るものも多く、通りに面して真壁の妻部を見せ、間口の広いそれら伝統的な家々は古い町並としても高く評価できる。こみせがあるために一階部も大幅に改装することができず、造り酒屋をはじめとした店舗が、古い構えのまま営業されているのを見ることが出来るのも趣深い。大きな杉玉を吊るした酒屋も眼につく。裏通りもそれら商家の裏手の土蔵などが織成す町並があり、各家が集積した富の大きさが伺えるようであった。
 周囲では地元の方々が雪かきに精を出しておられ、雪国らしい町並に一層風情を添えていた。


こみせの内部は高い木質感があり、積雪から守られ安全な通路が確保される 右のようにガラス戸で覆われているものもあった




中町の町並



中町の町並



浦町の町並

訪問日:2007.12.31 TOP 町並INDEX