三河大野の郷愁風景

愛知県鳳来町<宿場町> 地図  <新城市>
 
町並度 6 非俗化度 5 −秋葉街道に面する奥三河の宿場町−





 三河大野は奥三河地方の交通拠点として古くから栄えた所である。豊川の刻む谷が上流に向けてやや狭まり、仏法僧の鳴くといわれる鳳来寺山を仰ぐ地に町が開けている。




町の中心に残る旧銀行の洋風建築






 
 鳳来寺山はその嶮しい山容もあり信仰の山として巡礼客が多く、さらに付近は遠州の秋葉神社への沿道にもあたっていたため信心深い旅行者により大野は宿場町の賑わいがあった。俗に秋葉街道と呼ばれていた秋葉神社に向う街道はここの他にも幾つかある。
 旧国鉄飯田線が豊川の対岸を走り三河大野駅が設置されているものの、構えは小さく田舎駅の風情である。山峡に位置することもあり、町場の広がりは余り想像できない雰囲気が漂うのだが、国道の山側に伸びる旧道に面して意外なほどの家々の連なりが古い町並を従えて迎えてくれる。伝統的な建物の割合も比較的高く連続した町並景観も随所に見られる。旧家はほぼ平入りで統一され、格子や出格子が端正に整えられ残された姿が目立つなど、比較的木質感の高い町並風景であった。
 最も眼を引くのが町の中心、交差点に残る旧大野銀行の建物だ。大正14年に銀行として建立されて以来、2006年まで地元に密着した金融機関として活躍してきた。役割を終えた今では個人が買取り、喫茶店とギャラリーとして新たに活用されているのだという。大野の町が古くから近隣経済の中心であったことを示す洋風建築である。
 この町は信州飯田とを結んでいた別所街道が交差していたことが賑わいを倍加していたようだ。旅籠屋も多く、旧大野銀行の隣にはその名残を思わせる旅館が今でも格式ある面立ちで営業されている。商家だっただろう見応えのある町家建築もあり、街道歩きが旅の手段の主体であった頃、ここにはどんな風景が展開していたのだろうか。何しろ鉄道開通までは遠州からも街道を伝って買い物客で賑っていたらしい。
 鳳来館と称される旧銀行の建物を中心に、少しずつ町並の尊さを発信され探訪客も見られるようだ。奥三河の谷あいに予想外の古い町並を見た気がした。

 

訪問日:2010.01.02 TOP 町並INDEX