南五味塚の郷愁風景

三重県楠町<企業の建物群> 地図 <四日市市>
 
町並度 5 非俗化度 6  −造り酒屋自身が町並を形成する−






 楠町は四日市市の南に接し、伊勢湾に面する。湾岸部には延々と工業地帯が連なっており、一見殺風景な地区ではある。鈴鹿川の河口に位置し、沖積平野上にある低平な地域で、近畿日本鉄道の名古屋線が町を縦断しているが幹線道路はなく、ややもすると通過点ともならないような所である。
楠町南五味塚の町並 酒造家の形成する町並である


 
江戸時代は桑名藩領名古屋藩取締とあり、楠郷と称され漁業と木綿生産が行われていたことが記録されている。
 先述のように河口部の土砂堆積による脆弱で低い地盤のため度々水害を受け、高潮や塩害も多く、また河川も感潮区間であるため水利には恵まれなかった。新田開発により水田が開かれたが低地のため滞水なども起き、決して農業的に恵まれた地ではなかった。
 漁業は江戸末期に地引網等が発達し、明治大正にかけて発展したが、その後周囲の工業開発に伴い衰退している。
 その中で産業、特に醸造業が基幹産業として息づいた。既に幕末には酒のほか味醂、焼酎なども生産され始めており、明治以降大きく発達した。数多くの業者が存在したが現在は明治20年創業の宮崎本店のみとなっている。
 しかしその酒造家一軒が古い町並を自ら形成していた。酒造工場の建物は黒板壁に覆われた年季の入ったもので、路地に連なりを見せる。一軒の造り酒屋としてはかなりの規模で、所内の多くの建造物が登録文化財となっているという。
 申し込めば見学も出来るというが、訪ねたのは早朝でしかも時間的な余裕も無く敷地内を歩くことは出来なかった。しかし、敷地外の路地に展開する風景は古い町並として遜色なく、1軒の企業の醸成する特異な町並が展開していた。

 
 








関係者の邸宅なのか厳かな邸の向い合う一角もあった

訪問日:2012.11.04 TOP 町並INDEX