美山北の郷愁風景

京都府美山町<農村集落> 地図 <南丹市>
 
町並度 7 非俗化度 3 −日本を代表する茅葺集落の一つ−

水田を前景にした茅葺民家群・北集落の風景


 美山町は京都府北部の山深いところで、北に若狭を控える位置にある。京都の人はこの地域を北山と呼ぶ。北山杉はこの周辺で産出される杉の良材のことである。
 その名も北山型と呼ばれる入母屋造の茅葺家屋が多く残っていることでもよく知られ、特にその中でも質、量とも豊富な北集落は重要伝統的建造物群保存地区に指定されている。
 北集落は町域の中央やや北東寄り、日本海に注ぐ由良川の上流域に属している。ここを訪ねるとまずその迫力的ともいえる遠景にまず圧倒される。集落は山際から谷間に向けての緩い傾斜上に立地していて、その多くが茅葺で占められているため谷の中央にある道路からは茅葺屋根が林立しているように見えるのだ。
 しかし次には柔らかい山里の情景に包み込まれるような感触になる。その点、重厚な町家が連なるような「大都市型」の古い町並とは大きく趣が異なる。大袈裟に言えば日本の原風景を見るような、大変絵になる風景である。
 集落に入ってもその豪勢とも言える建て方に感嘆させられる。今では茅葺集落というと鄙びた山奥の片田舎にある崩れかけた農家を想起させるが、ここでは堂々たる邸宅である。先に書いたように入母屋風の屋根構造となっていることもさること乍ら、屋根上に寺社の佇まいを彷彿とさせるような木組みが掲げてあって、茅葺民家を一層格調高いものにしている。道は緩やかにカーブし、谷間に平行な平坦な道と、直交する緩い坂道が幾つか交錯する。しかしそれらも碁盤目の都市計画といった機械的なものでなく、当時の敷地割、農地割から決まったものなのだろう。所によっては古びた石垣が茅葺民家の裾を取巻き、澄んだ流れの用水路も軒下や農地を巡っている。
 現在、山間に小集落が点在する印象しかないが若狭から網の目のように張り巡らされた「鯖街道」もこの地区を経由したことで、古くから外部との交流の機会は多く保たれてきた。この北集落も若狭からの古い往来に沿っており、ここの民家は若狭大工の手による所が大きかったといわれる。旧丹波国に属していたこの一帯は藩政期の多くが篠山藩領であったが、山林は後半には京都代官の支配を受けている。若狭、京都それぞれの影響を深く受け続けた地域なのである。産業としては農林業のほか麻糸製造なども営んでいたという。
 最近になって県道沿いに道の駅が出来て多くの訪問者が訪ねるようになっているが、集落内はほとんど外来客に迎合したような雰囲気が無く、よいことである。屋根は数十年に一度葺替えを行わなくてはならず維持は大変と思うが、全国的にも数少ないこの集落風景を何とか残し続けてほしい。訪問客の増加を期待する施設を作ることなどは望んではいけないだろう。
 
 









訪問日:2004.08.14 TOP 町並INDEX