水荷浦の郷愁風景

愛媛県宇和島市【農漁村集落】 地図
 
町並度 5 非俗化度 8 −段畑を背後に仰ぎ見る半島の小集落−





水荷浦集落 背後に段畑が展開する


 宇和島周辺の海岸線は細長い半島に囲まれた湾が多く、養殖漁業が盛んで多くの生簀が浮んでいるのが見える。
 水荷浦地区は宇和島湾の南を限る半島の北岸、かつて遊子浦と呼ばれた地区の枝浦とされていた集落である。水荷浦というこの地名は、水利に乏しく村人が水を担いで運んだということに由来するとも言われる。それを象徴するような展望が集落背後の斜面に見られる、段畑と呼ばれる石積の段々畑が大きく広がっている。
 かつては漁業中心であったこの地区は、時代の要請などにより農業に重心が移り、中でも甘藷の生産が盛んになった。水荷浦では耕地にできる平地はなく、集落背後の斜面を開墾した。江戸末期頃から盛んになった畑作であるが明治半ば位までは土盛りによるもので、以後養蚕が盛んになり、その収入により現在のような頑丈な石垣が導入された。その頃は桑も盛んに栽培されていたといわれる。
 昭和に入り養蚕景気も下火になるとイワシ漁に転業する者が増え、畑作は主に老人や女性が担うことになった。しかし、再度盛んになった甘藷栽培は焼酎の原料として九州に出荷されるなどして景気付いた。この頃が水荷浦にとっての二度目の隆盛期といえよう。その後養殖漁業へ傾き、現在ではジャガイモなどが細々と作られているようだ。




集落内の風景 趣のある路地風景も見られる





 段畑は小さいながらも観光資源となっており、国の文化財審議会による「重要文化的景観」なるものにも選定されているという。上ってみると集落との比高もかなりのものであり、畑地の上部に立つと、湾の奥地まで見渡せるほど眺望も良い。そしてこれだけの石を積上げたというその労力は想像を絶するものがある。これでも最盛期よりは随分小さくなったとのことである。
 段畑下の集落に入ると、二階部分に木製欄干を備えた家が見られるなど小さな集落にしては見応えのある路地風景もあった。集落の隆盛期に財力を誇った御宅なのかもしれない。





訪問日:2019.08.12 TOP 町並INDEX